大手人材系の会社に転職し、法人営業に携わった。
個人宅訪問営業とは勝手が違って初めは戸惑った。
それでも先輩の特訓を受けて、全国表彰される成績を出すように。
ただ、ここでも同じだった。2年勤めたころにまた酒の席で失敗して。
「なんでいつもこうなんだ……」
言い訳が欲しかった。休職してうつ病の診断をもらい、服薬を始めたのがまずかった。
うつ期とは言い切れない時にうつの薬を飲むことで、本当に動けなくなったんだ。
未来の見えない霧のなかで、がむしゃらに行動することすらできない。
そんな状態が嫌で。なんとかしたくて。
足が動かないなら車で物理的に体を動かそうと、金沢から北海道まで車で回った。
「確かに、進んではいる」
何かが変わった感覚はない。ただ、景色は変わり、体は前に進んでいる。その感覚だけが頼りだった。
何もしないわけにはいかないから。
会社は辞め、もう病気は治ったことにして、個人事業で営業代行の仕事を始めた。
営業だけでは食えないと思って、縁のあったいろんな仕事も手掛けていった。ことごとく失敗した。
「商材が悪いんだ。俺には営業力があるんだから」
売れない理由は商品が悪いから。仕事をくれる会社が悪いから。運が悪いから。
こんなに運が悪いのは……
「関わった女の子たちの怨念でも憑いてんのか? 」
思い当たる女の子の名前を紙に書いて、謝罪の言葉を書き付けて。魔除けと思って持ち歩いた。
もちろん、何にもよけられやしないんだけど。
たまに収入があると、いつものルート。全部キャバクラに消えていく。
そんな時、ある仕事がキッカケで、和食料理店のおじさんと知り合った。
「お前、いまヤバいやろ。カッコつけんな」
「別に、ヤバくないっスけど」
なぜかいろいろ詰めてくる。
反発しながらも、個人事業の合間に時給千円で働かせてもらうことに。正直、収入としては有難い。
めちゃくちゃ漢気のある人で。
もう30年の付き合いだとか、毎晩利用する常連さんだとか、彼のことを慕う人がたくさんいるんだ。
そんな彼から見て、僕の生き方や仕事の仕方は頂けないものだったんだろう。
地元の付き合い、高校、大学、前職……そこから離れるたびに人間関係全部ぶった切って。
女の子との関わり方も同じ。お客さんとの付き合い方も同じ。
その場限り、商品やサービスを売って対価を受け取ったら、あとのコトは知らない。
それが、モノを売買するってことだろう?
なにも、騙したり契約違反をしたりしているわけじゃない。約束した責任は果たしている。
「お前、その付き合いどの程度のつもりなんだ? そのお客さんとどのぐらい付き合う気なんだ? 」
「とりあえず、1年ぐらいっスかね」
「その先は? 1年付き合って、その後どうすんだ? また売り逃げか? 」
「……うっさいっスね」
バイト後にご馳走になりながら喧嘩になることもある。でも、彼は僕に食い下がる。諦めない。
「売り逃げ、いい加減やめろよ。って言ってもやめやしねえだろうから、嫌だと思うまで……やりたいだけやれ」
こう突き放されると
「いや、そんなん言うなら……やめますよ」
なんて返すこともある。が、やめられやしない。
それでも、彼の見せてくれる生き方は、僕のそれよりうんとステキに見えた。
大勢の人に愛され、感謝され、対価も受け取り、笑顔で付き合っている。
僕のやってきた仕事は間違っていたんだろうか。
僕の生き方は何がズレていたんだろうか。
この人みたいにひとりひとりと長く付き合っていくなんてコトが、僕にもできるんだろうか。まさか。