関茂雄 Episode1:空っぽの自分を持て余す | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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寝て起きたら友達の家にいることがよくあった。

家があんまり好きじゃない。怒られるし、叩かれるし、ピアノ室に閉じ込められることもあるし。

パトカーを見つけると夢中で追い掛ける。スーパーに行くと5周ぐらい全力疾走。
そして、母さんに見つかって叱られる。
「そんなに騒いじゃダメ」
「ピアノの練習しなさい」
「字は上手くなきゃいけないわ」
「勉強しなさい、早く寝なきゃダメ」
「あれはダメ、これはダメ、これしなさい、これやめなさい……」

したいようにしちゃいけないのか? 押さえ込まれるのが嫌で、嫌で。
父さんはあんまり家にいないし。いても、酔っ払って絡まれるのウザいし。
ダメって言われたら余計にそれがしたくなるから。でも、また怒られる。
それが嫌で、夜のあいだに友達の家に行っていることがある。あんまり覚えていないんだけどね。

そんな兄貴を見ていたせいか、弟たちはずいぶん大人しく育った。
でも僕は、いくつになってもやんちゃなまま。逆に、「こうでなきゃ俺じゃない」って意地になるくらい。

小3でバスケを始めた。近所の友達の家にバスケットゴールが来たんだ!
学校をサボって近所の仲間と明けても暮れてもバスケ、バスケ、バスケ。
楽しい。とにかく楽しい。ミニバスのチームに入って、切磋琢磨。学年では僕が一番上手かった。

ただ、学年が上がるにつれ、純粋な楽しさ以外のコトを意識するようになった。
「認められたい」っていう気持ちが出てくるんだ。“レギュラー争い”とかね。
身長の低さもあって、レギュラーとして試合に出ることがだんだん少なくなって。

学校のテストでも100点でなきゃ号泣するくらい、失敗を嫌がる僕。
ミニバスのレギュラーの座が危うくなっていることを、気にしながら、気にしないようにして。
傍から見たら勉強もできる。所属チームは新潟県で2位だから、学校内ではバスケもスポーツもできるほう。
中学に進学すると、新しくバスケ部に入った僕らのほうが上級生より上手いくらいだった。

中学に入ると、不思議なコトが起こった。女の先輩たちにチヤホヤされて、こっそり呼び出されたりする。
僕にはよくわからない。「なんか、好かれてんのかな」とか思っていたんだけど。


バスケ部の練習中に出したパスを、先輩がミスって落とした。
「先輩、しっかりしてくださいよぉ! 」
笑って言ったそれが引き金になった。

もともと煙たかっただろう、自分たちよりバスケの上手い後輩たち。
そのなかで特別背の低い僕。入学した時点で136センチだった。
その後輩がやたら女に好かれていて。いじめる対象としては最適だ。
そしてその僕が、引き金を引く言葉を放った、無意識に。

暴力やツケ回しもあったし、家族に危害を加えると脅される暴言もあった。
ただとにかく、無視されるのが一番きつい。
部活だけじゃない。圧力が掛かったらしく、同級生たちもまったく僕を相手にしなくなった。

話し掛けても、いないものとして扱われる。5回、10回、無視されたら……もう心は折れる。
僕のほうからも、人に話し掛けなくなった。会話のない学校生活。
部活の顧問も見て見ぬふり。誰も助けちゃくれないんだ。

不運にも、同時期に思春期に突入した。
このあいだまでチヤホヤしてきた女の先輩たちさえ、僕を無視し始めて。
ほんの1、2ヶ月前までは女に囲まれて何とも思っていなかったのに、いまになって……拷問だ。

パスも回ってこない部活に辟易して、中1の冬にバスケ部を辞めた。
バスケがしたい。でも、バスケが憎い。
そうして、なんでなんだろうな、バレー部のドアを叩いた。バスケ部の部室の前を通って毎日バレー部に向かう。

バスケに対する憎しみを叩きつけるように、バレーボールを打ちまくる。
でも、気づくとバスケ部の連中を眺めている自分がいる。本来僕のいるはずだった場所……。

したいバスケができない。女に関心があるのに無視され続ける。
フラストレーションを勉強と筋トレにぶつけた。
5教科で490点取るのが普通。県模試では12位とかそのあたり。
一日千回腕立て伏せするのも日課。諦めていた背がなぜか伸びて、筋肉もめちゃくちゃついた。


中2になって、バスケ部の同期にいきなり昼休みのバスケに誘われた。戸惑いもあったけど、うれしかった。
数日そんな事が続いて、ある日言われた。
「いつ戻ってくんの? 」

バスケ部には復帰した。体のでかくなった僕が、部のほうでも必要になったみたいだ。
じきに先輩たちも卒業して、レギュラーにはなれなかったけど6番手にはなれて。
勉強もできるし、最終的にはそれなりの中学生活だったかもしれない。

でも、僕のなかは空っぽだった。自分ってものがわからない。自分のなかに確かなものがない。
やんちゃを押さえ込まれて反発していた幼少期から一転、みずから自分らしさを押さえ込んだことの不自然さ。
自分とか、人との付き合い方とか、女性との付き合い方、将来……何も、わからなかった。

掲載日:2019年01月15日(火)

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CSO株式会社 代表取締役

関茂雄(せき しげお)

悩めるすべての人に、人生や経営の目的や指針、戦略を見出すコンサルを手掛ける関茂雄さん。その前半生は、自分が何者なのかを見失ったまま試行錯誤していたのだといいます。関さんが人生の軸を掴むまでの物語です。

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