地元、小千谷市界隈のつながりを絶つために、別の市の高校を選んだ。
バスケ部では入部と同時にレギュラーになった。
ブザービーターが得意。試合終了の直前に決めるシュートだ。めちゃくちゃ注目される。
スポーツで目立つ奴は、モテる。体も筋肉質ででかい。
それでなくても、背の低かった中1のころから女性にチヤホヤされる容姿だったわけで。
女の先輩たちに一瞬で掌を返されたトラウマを抱えたまま、女の子と付き合うようになった。
長く付き合ったり、そうでもない子もいたり、浮気されたり、僕も不義理をしたり。いろいろあった。
女の子と過ごしていると、ちょっと満たされる気がする。
複数の女の子に好かれることがステータスになるような感覚もある。
あの時僕を傷つけた女たちを見返してやりたい、なんて気持ちもあったかもしれない。
でも、そんな付き合い方で自分ってものが見えてくるわけがなくて。
「認められたい」
そんな想いで生きて経験するのは、「まだ足りない」「もっと」「何かが違う」なんて気持ちばかり。
3年次に部長になったら、マッチョな僕のやり方に反発して大勢辞めていった。
高校を辞めると言い出して家族とモメて、刃物を持ち出したこともあった。
高3の10月。模試を受けて自己採点していた時、建物が揺れた。
新幹線の通る駅の建物だから。
「新幹線の揺れ、今日おっきくね? 」
そんなふうに話していたら、でかいやつが来た。
すべてがスローモーションになる。あっちもこっちも窓が割れる。悲鳴の渦。
「地震だ! 茂雄くん、地元どこやっけ? 遠かったよな? 」
「小千谷です」
「震源地やぞ」
新潟県中越地震と名付けられる地震だった。センター試験を数ヶ月後に控えて車生活になった。
父さんの車には父さんと弟ふたり、母さんの車には母さんと僕が寝泊まりすることに。
家のあたりが震源地と知って、そこにいるはずの家族を初めて心配した。
家が割れそうになったり父さんの店の商品が割れまくったりしたけど、家族は全員無事で。
そんななかで、学校にも行けず母さんと過ごす毎日。
「……ちっちゃいころ、ごめんね」
ある夜、寝入る直前に、そう言われた……気がする。たぶん、空耳じゃない。そう言われた。
僕のちっちゃいころなんて、母さんも若かったから。一生懸命だったのかな……。
とは思えたものの、認められたい想いが解消されたわけじゃない。
石川県の国立大学に進学したものの、大学に入るのが目標だったから、入ってからしたい事なんかなくて。
実家の家業も地震でやられたから、学費や生活費も稼がなきゃいけない。
いろんなバイトをしては、反発したりモメたりして辞めることの繰り返し。
夜の世界にも興味があったから、ホストもやってみた。髪も金にした。
何かで飛び抜けたい。例えば、収入で。
そう思っていた僕に、時給5千円の仕事が舞い込んできた。……実は完全歩合制だったんだけど。
よくわからないまま、出された書類を埋める。仕事上の必要書類なんだろう。
そうして、家庭教師の電話営業の仕事を始めた。慣れてきたら訪問営業もすることに。
訪問営業、これが全然売れない。時給5千円なんて夢のまた夢。
なんて思っていたら、ある時気づいた。「俺、金髪や! そりゃ門前払い食らうわ! 」
社長はやっと気づいたかという顔をしている。
「なんで社長、教えてくんなかったんスか! 」
「だってお前、自分で失敗するまでわかんねえだろ」
……確かに。
髪色に限らず、ダメだった理由に気づいては改善、改善。業績はどんどん上がっていった。
毎月100万ぐらい稼ぐようになった。その金は、みんなキャバクラに。
ちなみに、最初によくわからないまま書かされた書類は、開業届けだった。
「茂雄、もう今年の確定申告……」
「かくてい? 何スか、それ」
知らないあいだに僕は開業していたらしい。
その会社から個人事業として営業の業務委託をされている、という形だった。
大学は3年次に辞めた。サークルなんかでモメたこともあり、大学の人間関係はそこでバッサリ。
営業で業績を伸ばすと、社内の指導にも回ることになり、じきにエリアマネージャーとして全国的に知られるようになった。
収入で突き抜けたいとか一目置かれたいとかいう気持ちは、それで満たされるはずだけど。
何かが違って。いつもいつも、何かが違って。
酒を飲むと記憶のなくなることがよくある。とはいえ、1杯飲んで飛ぶようなことはない。
ハメられた。何か入れらたんだと思う。社内の妬みゆえだろう。
「関さん、これヤバいっすよね? 」
絶対に撮られたらまずい写真を撮られ、言外に脅された。
誰を信じていいのかわからない。僕は会社を辞めた。
もっとでかい会社で結果を出して、僕をハメた奴らを見返してやるために。
いや、僕は、本当は……誰を見返してやりたいんだろうか。