生活ができるようになったわたしは、まず、娘に自分を愛せる人生を送ってもらうために、幸せになってもらうために。多くの10代にそうしているのと同じように、娘にもたくさんの愛を注いだ。
娘は、幼い頃に両親の離婚を経験し、母親にひどい虐待を受けて育った。
お腹が空いたと母の袖を引っ張れば、お腹が空かないと言えと言われ、小学生から母親と一緒に薬物をやっていた。
進級するごとに手の付けられない不良になり、犯罪を犯した。警察に捕まり、施設で生活をしていたある日のこと。母親からまた家族みんなで一緒に住もうという旨の手紙が届いた。
半信半疑だったが、それでも大好きな実の母親だ。外泊届を出して母のいるマンションに出向いた。
ガチャリ。
重いドアを開けると、そこにあったのは、薬と酒が乱雑に床に置かれ、裸で男と寝ている母の姿だった。
裏切りと憎しみに任せて、
「これで、死んでくれ! 」
包丁を床に突き刺し、彼女はそのまま部屋を出た。
次の日、彼女の母親は、お酒を飲み過ぎ、転んだ勢いで頭を打って本当に亡くなってしまった。
母の死は自分のせいだと思う自己嫌悪と、自分を裏切った母への憎しみが混ざり、その日を境に彼女はどんどん荒れていった。詐欺、恐喝、暴行……。少年院を出ても親戚は彼女を引き取らなかった。行くあても無く、転々としている中、例の施設でわたしと出会ったのだ。
そんな壮絶な過去を持つ娘と暮らし始め、まず伝えたこと。
「薬をやめろとは言わない。わたしもやっていたし、気持ちはわかる。でも、あなたが薬をやっている姿を見るのは悲しいから、できれば、やらないでほしい。でも、万が一、また薬をやってしまっても絶対に見放さないから。そこは安心して。外で捕まったら、ママに連絡してくればいいし、約束破っちゃったとか思わなくていいから。このやろ!ってデコピンはするけどね。また手を出しても絶対見放さないから…」
すると、娘は、あっという間に薬をやめた。
出会った当初はガリガリにやせ細り、金髪で目の周りが真っ黒なギャルメイクをしていた娘の見た目も、少しずつ変わっていった。わたしがそうしろと言わずとも、髪をサラサラの黒髪にして、化粧もそのままの自分がよく見えるナチュラルなものになっていった。
数年前までは薬漬けで自分を痛めつけることしかしていなかった娘が、今では「自分の身体に入れるものだからね!」と笑いながら、オーガニックの野菜をもりもり食べている姿には笑ってしまう。
出会った頃とは別人のような笑顔で笑う娘。
自分を愛して生きていく力を、少しずつ自分の手で掴んでいっているようだ。