大学を卒業してすぐの頃に、同期と有志でやっていたお芝居のワークショップで、僕は人生で一度目の「衝撃の出会い」を経験する。
そのワークショップに、なんと当時憧れだったあの浅野忠信さんが忙しい中わざわざ見に来てくださったのだ!
「わるくなかったよ」
自分の演技を見てもらって、憧れの人にそう言ってもらえて有頂天だった。
しかも、そのあと一緒に飲みに行けることにもなって夢のような気分だった。
浅野さんは僕たちに問いかけた。
「みんなが役者として食べていける方法が一つだけあるよ。なんだと思う?」
有名な監督とつながること?あきらめずにオーディションに出続けること?
浅野さんの回答はシンプルだけど衝撃的だった。
「俳優として食べていきたいんだったら、明日、今やってるアルバイトの辞表をだしたらいいよ。」
「俳優として食べていくことを覚悟すれば、俳優として食べる方法を見つけようとするから」という理由だった。
そんなこと言われてもバイトを辞めたらお金が入ってこなくなるし、俳優の仕事って言っても探し方もわからない。僕は茫然としてしまった。結局、僕はその覚悟を持てないまま、アルバイトの辞表を出すことはなかった。
そしてそれからすぐに東日本大震災が起こった。
掲載日:2018年11月29日(木)
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元俳優・執筆家・講演家
川口美樹(かわぐち よしき)
オールマイティに何でもこなせた。でもいつも一番にはなれなかった。自分だけのフィールドを探し続けた先に見つけたのは、自分だけの「在り方」だった。