山崎奈々 Episode1:どこか人目が気になって。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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私にはお姉ちゃんがふたりいる。医者をめざす上のお姉ちゃんは、長女だからだろうか、厳しく育てられていた。
上のお姉ちゃんが高校受験を迎えた。部屋を覗いた時に彼女が勉強していないと、お父さんは怒鳴る。
「またやってる……」
私への当たりはお姉ちゃんへのそれほどきつくないけれど、それでも家のなかはピリピリする。
大きな声が響くたびに思う。「ご近所さんに聞こえてるのかな……」
それ自体心地イイものではないけれど、周りから“そういう目”で見られることも嫌だった。

商社に勤めるお父さんは付き合いで飲むことが多くて、生活習慣も健康的ではない。
じきに肝臓を悪くした。入院治療して酒も煙草も止められたものの、やめられないストレス。それを受け止める家族。
家のなかはいつも張り詰めていた。

入退院を繰り返したお父さんは、私が中2の時にとうとう亡くなった。
通夜や葬儀で学校を欠席しながら、学級通信なんかで「秋川さんのお父さんが亡くなりました」と知れ渡っていることを思った。
私は学校にいない。でも、学校では私のことが話題になっている。
良い事で目立つのならともかく、こういう事で目立ちたくなかった。
葬儀明けに学校でテニス部の仲間に慰められたことで苛立って、口論したりもした。

荒れている面はあったものの、部活は楽しいし、仲の好い友達もいる。
そのなかのひとりは、お父さんにものすごく愛されていた。
たいていは母親の出席する保護者参観に、彼女のお父さんは有給を取ってやって来る。
試合なんかがあると、娘の分だけでなく私たち部員全員分の飲み物を用意してくれたり、写真を撮ったり。
「いいな、こんなお父さんがいて……」
働きに出るようになったお母さんに代わって、私は姉妹で家事を分担するようになっていた。
不自由なく愛されている彼女がうらやましかった。

上の姉は経済的な理由で大学進学を諦めた。2番目の姉は家出を繰り返すようになった。
私が高2の時、お母さんの再婚で苗字が山崎に変わった。家計は楽になり、お母さんは専業主婦に戻った。
私も大学に進めることに。大学受験の必要書類を「山崎奈々」で揃える時に、違和感が生まれた。
「“山崎奈々”……これが私なのか」「私は何者なんだろう」

大学に進学し、テニスサークルやキャンペーンガールのアルバイトに励んだ。
就活のことは早めに考えていて、2年次にはもうメーカーと商社に絞っていた。そんな矢先。

「奈々。お姉ちゃんね、結婚するって」

長年音信不通だった2番目の姉が妊娠し、結婚することになったという。相手は行きつけのバーの店長さん。
義兄になる男性がどんな人なのかまったく知らないまま、私は人生で初めて結婚式というものに出席することになったのだった。

掲載日:2018年09月07日(金)

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フリーウェディングプランナー、「Prism Wedding」代表

山崎奈々(やまさき なな)

フリーランスのウェディングプランナーとして活躍する山崎奈々さん。普通の大学に通っていた山崎さんの進路を変えたのは、お姉さんの結婚式での感動体験でした。

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