鈴木崇之 Episode1:ダサく見えるのは嫌だから。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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ずっと憧れてきた兄ちゃんをいつの間にか抜いていた――そう気づいた時のこと。

兄ちゃんに憧れて、同時に、「兄ちゃんみたいにいろんなコトができない僕は……」っていう気持ちも持っていて。
母さんや父さんの関心が奪われちゃうっていう気持ちもあって。

末っ子の僕は、上のふたりを見て育った。
大好きで憧れているけど、絵を描いてもゲームをしても何をして遊んでも、4つも年上の兄ちゃんには勝てない。
うまく言えないけど、憧れの裏には何か焦るような、満たされないような気持ちがあった。

追いつきたい。追い抜きたい。一番愛されたい。

だから、上ふたりや両親、じいちゃんばあちゃんを観察する。
どうやったら僕が一番になるか、満たされるか、注目を浴びるか考える。ズルもする。
両親が兄ちゃんに買ったおもちゃを、ねだって譲ってもらったこともある。
姉ちゃんの宝物のネックレスをわざと壊したこともある。

その兄ちゃんを、気づいたら抜いていた。そう、思った。
小学校に上がって、家族以外の遊び相手や話し相手が出来て。
兄ちゃんや家族が基準だった僕は、それ以外の判断基準を初めて持った。

「あれ? 兄ちゃん、こんなコトもできないの? 」
「昔いっしょにやってたゲーム、僕のほうが強くなってる」

インドアで友達の少ない兄ちゃんに対して、外で遊び回ることも覚えた僕。
兄ちゃんよりできるコトの増えた僕。兄ちゃんより友達の多い僕。

「僕のほうが、兄ちゃんより……」

そう、なぜか僕の周りには人が集まってくる。
ガキ大将とかリーダーとか、そういうキャラじゃない。ただ、なぜか友達が多い。

どこに行こう、何をしよう、って僕が言い出して遊びを始める。
友達の家に昆虫用のゼリーを投げ込んだり、家に和式便所のある子のことを「ポットン」と呼んだり。
最初は無邪気に始めたそんな遊び。でも、毎回ふと「いつか僕にも回ってくるのかな? 」と不安になる。

友達の中心にいたい。誰かの上に立っていたい。
ただ、それが叶っていても、満たされたり安心したりする感覚はない。
かといって、こういうキャラをいまさら捨てるなんて、怖い……キャラを変えて評価が悪くなったらダサいし、嫌だな。

愛情いっぱいに育ってきた家庭内のバランスは、小学校高学年のころに崩れ始めた。
優しくてカッコよかったじいちゃんが亡くなったんだ。

もともと気分屋で我の強かったばあちゃんを抑える人がいなくなった。
もちろんばあちゃんだって、愛情を注いでくれるんだけど。
ある時にいいよと言った事を、別の日には簡単に覆す。僕の交友関係にも口出しをする。

「釣竿なんか置かないで! 」
庭の片隅の、邪魔になるわけでもないところに、友達の釣竿をちょっと置こうとしただけのに。
ばあちゃんの言い分には、全然筋が通っていない。僕の言い分なんか聴きゃしない。
「ダメなものはダメ! 」

理不尽だし、怒りが湧くんだけど。うまく言葉にならない。大人に太刀打ちはできない。
そして、ばあちゃんの正義が押し通される。
「理解し合えない人っているんだな……」
怒りを通り越して生まれたのは、そんな気持ちだった。
ばあちゃんに何を言っても無駄なんだ。どんなに言葉や誠意を尽くしても無駄な相手っているんだ。

人より下位にいたくない。失敗したくない。何かを表現して理不尽に押さえつけられるのも嫌だ。
自由奔放にやっているようで、実際には“そう見えるように”いろんなコトをうまくごまかす。
臆病な自分がバレないように、失敗しないように。

中学に上がって校区が広がり、イケイケでやんちゃな大半のクラスメートに馴染めなくなって。
居心地の悪さは、小学校から仲のよかった友達と過ごすことでやり過ごした。

「イケイケの奴らと仲よくなれたら、学校楽しいかな」そんな気持ちも正直あった。
でも、近づいてはねつけられたりバカにされたりするのが怖い。
だから行動はせず、昔からの少数の友達と過ごす。

別に、ハブられているわけじゃない。友達だっているんだけど。

「あいつ、人目を気にせず生きてて、人に対して壁がなくて……いいな」
好きなコトは好き、嫌なコトは嫌、自分を堂々と表現するクラスの中心人物を遠くから眺める。眩しい。

僕にもあんな生き方ができるのかな?
人の集まってくれる自分を演じるんじゃなくて。
思ったままに堂々と振る舞いながら、素の魅力に集まってくれる仲間と生きる……そんなコトが、僕にも。

掲載日:2018年12月14日(金)

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CSO株式会社 最高執行責任者

鈴木崇之(すずき たかゆき)

失敗という概念が消えてから軸がぶれなくなったという鈴木崇之さん。人目を気にしながらも心を開いて生きようと試行錯誤してきたものの、失敗を嫌がる癖がなくなったのは20代の終わりのこと。その半生を追いました。

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