全国レベルの選手と初めて対戦したのが高校3年次。
ただ、そういうレベルの選手と同じチームで切磋琢磨するのは、大学に入ってからのことだ。
187センチの長身でバカみたいなバネで跳んだりする先輩。
努力という言葉を超越して毎日研磨して、プロに進む先輩。
常に自分の想いや考えを言語化する、目的意識の高い同期。
実際にプロもたくさん輩出している、伝統のある部活だ。
彼らを越えるための努力の方法が、僕にはまったくわからなかった。
変わらなきゃ、変わろう、と決めてやって来た場所。
言いにくい事でも自分の意見を言うようにしたり、それまで以上に練習に打ち込んだりはした。
同時に、何をやっても覆らない実力の差にある種の絶望をした。
同学年のキーパーには上のチームに所属する奴もいるなか、僕は基本的にCチーム。
ごまかしの癖が出た。こんな環境でも、自分のポジションをつかみたくて。
教員になろうと教職課程を取った。
オフの日も1限から空きコマ無しで講義を取って、5、6限の時間はグラウンドで練習、その後自転車で学校へ向かい夜間の教職課程の講義を取る。
それなのに部活には手を抜かない。誰より真剣に打ち込む。過去のどの時期の自分以上に努力する。
たとえ結果は劣っても……「教職取りながらこれだけサッカーやってる俺」を免罪符にしようとする気持ちがあった。
教員を目指さないと決めたあとも、投げ出して負け犬になりたくなかったから教職課程の講義は取り続けて。
もちろん、部活との両立は言わずもがな。
だけど、初心をすっかり忘れたわけじゃない。自分を磨くためにこの大学のサッカー部を選んだ初心。
このまま続けていても上のチームでの活躍は難しい。
これまでCチームやBチームに所属し続けて、たまにAチームに追加登録されても、Aチームの試合に出ることはなかった。
そんな状況で改めて、自分の大学サッカーをやるに至った目的に立ち返った。
「サッカー選手になるためじゃなくて。自分を変えるために、磨くために、サッカーを続けよう」という当初の目的。
この環境で、僕はどうする?
自分を変えるため、成長するために、何が最善か?
自問自答を繰り返した。
そんな時、サッカー部の主務という可能性が見えた。部全体のマネージャーであり、責任者でもある。
選手として活躍できなくても、人をまとめるという立場でなら一廉の何かになれるかもしれない。
主務を務めるには選手をやめる必要がある。
プロを目指すつもりだったなら、たとえ上の試合に出られなくても選手であり続けただろう。
だけど、僕の進学の動機は違ったから。ここで何かを変えなきゃ、僕はずっとこのままだ。
僕の下したのは、主務になるという決断だった。
チームで日本一を目指し、サッカーを通じて人間的成長を追求する。
これを理念に据えて、練習以上にチームのあり方にアプローチした。
毎日毎日部員と対談し、本音を引き出そうとしたり、僕や監督の想いを共有したり。
日本一のチームなら、こういう場面でどう振る舞うか。
人間的成長を第一に置く人間なら、こういう場面で何と言うか。
チームに蔓延していた甘さの排除を一番の課題とし、僕自身率先して行動を改める。
「強いから、うまいから、この人だけは何かが見逃される」なんて、日本一のチームにはありえないから。
変化は、もちろんチームにも生まれた。でもそれ以上に、僕自身の心のあり方の変化に驚いた。
主務になって半年強、4年次の夏前に迎えた強豪校との試合。
先制後、一度逆転を許し、それをさらに覆して3対2で下したその瞬間。
「僕の出ない試合は全部負ければいい」
そんな事まで思っていた僕が、涙を流して喜び、感動していた。
人のために流す涙が、こんなにも熱いなんて……!!!
人の上に立ち、自分自身がどんどん変化してゆく。
それは、傲慢でちっぽけだった過去の自分のみっともなさを直視するプロセスでもあって。
「見なくちゃ、変えなくちゃ」とずっと勘づきながら避けてきた事だから、楽なわけがない。
でも直視するつらさ以上に、思いがけない方向に変化してゆく自分自身への驚きと喜びのほうが、うんと大きかった。
まさか僕が、人のために何かをして、泣いたり喜んだりできるようになるなんて。
下のチームにいた子が上のチームに上がって活躍するさまが、本気で喜べるようになるなんて。
選手であろうとなかろうと、チームはひとつ――チームの一員として、主務という役割をまっとうすることで、何かを成し遂げる。
それが、こんなにも感動的だったなんて。
自分が自分だと思っていたものの殻が破れ、大きくなる。
自分が自分だと思っていた範囲が広がり、仲間が自分の一部と感じられる。自分が仲間と一体だと感じられる。
4年次のリーグ戦を終えるまでの1年間、主務として務めた僕の変化は、とても言葉に表しきれない。
掲載日:2018年12月04日(火)
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砂田康太(すなだ こうた)
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