砂田康太 Episode1:勝つことがすべて。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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何でも与えてくれる両親のもとに育った。

我慢させられたとか足りないとか、そういう気持ちを感じた覚えがない。
ほかの家庭と比べても、何でもやらせてもらっている感覚がある。

3歳で「これやりたい」と言ったら、サッカーをすぐにやらせてくれた。
兄貴の通う塾というのが楽しそうで興味を示したら、すぐに通わせてくれた。
学校の部活じゃなくてクラブチームだから。小4の時に、本気でサッカーを続けるならほかの習い事は……という流れになった。
両親は二つ返事でほかの習い事をやめさせてくれた。

「おめえがやりてえ事せえ」
何かやりたいと言ったり相談したりすると、父さんは必ずそう言ってくれる。母さんも、頷いてくれる。

施設育ちの父さん。自分のしてきた苦労を子どもには、という気持ちがあるんだろう。
「我が子には人並み以上の生活をさせるって決めとるけん」これが、父さんの口癖。
朝は3時とか4時とか……めちゃくちゃ早い時間から競りに出て、魚を仕入れたり捌いたり。和食の料理人なんだ。
夜ほとんど寝られないぶん、午前中や昼のうちに仮眠を摂っているみたい。

独立して一旗揚げた飲食店の店主を特集するテレビ番組を、父さんはよく録画して見ている。
本当は店を持って独立したい気持ちがあるのかな、と思うところもあったけど。

僕ら息子や家族のために、確実に収入の得られる仕事……大変な仕事を続ける父さん。
やりたい事を犠牲にしてでも、僕らに不自由ない生活をさせてくれる父さん。
言葉と行動にズレのない、芯の通ったかっこいい父さん。
そんな父さんを支え、僕らに愛を注いでくれる母さん。

「何でも与えてくれる両親を、俺が、めちゃんこ喜ばしてやりたい」
もちろん、純粋にサッカーが好きだという気持ちもある。
でも、僕が結果を出すとめちゃくちゃ喜んでくれる両親を、もっともっと喜ばせたいという気持ち
もあった。

サッカー一本に絞って以降、岡山県で一番強いチームでキーパーとして活躍し続けた。
キーパーなんだから、ボールなんか来ないほうがチームとしてはイイ。
でも僕には、球が来ると燃えたぎるものがあった。
「よし、見せ場だ」「スーパーセーブして注目浴びてやる」
チームとして勝つのは当たり前。僕が注目されるかどうかが、僕にとっては大事だった。

僕がイイ働きをして取材されたりすると、父さんも母さんも新聞記事を切り抜き、ケーブルテレビの番組を録画して何度も見る。
ただただ、それがうれしい。

ただ、ここ一番で勝てないというところがあって。
その悔しさをさらに練習にぶつける。中学に上がっても持ち上がりで、引き続き県内随一の実力者の集うクラブチームに所属。

それぞれ習い事をしていた小学時代と違って、中学生になると、部活動という形でクラスメートの様子が少し見えてくる。
「なんだよ。いきがってるけど、県大会にも出れてないんじゃん」
「県大会なんてシードで出るもんでしょ」
「へえ、あれだけやってこんな感じなんだ」
相変わらず取材されたり、新聞に取り上げられたりして、注目を浴びているチームや僕。
頑張っていると言いながら結果を出していないクラスメートたち。

「勝てない奴はクズ」「負けた奴は一生負け犬。負けは覆せない」
もちろん、常に明確にそういう事を意識していたわけじゃない。
ただ、僕がクラスメートや学校の人たちに抱いている感覚を言語化するとしたら、そういう表現になる。

サッカーでトーナメント戦をするだろう。一度負けたら、敗者復活はない。
その感覚が僕の常識だから。サッカー以外でもその前提で、人を、世界を見る。
「負けたからこそ得られるもの」なんて、勝てない奴の言い訳に過ぎない。勝つほうがイイに決まっている。

勝ち続けなきゃいけない、というプレッシャーはなかった。
「これだけやってるんだから、そりゃ勝てるさ」

3年生に上がりチームの中心になり、いよいよ迎えた中国大会の決勝。
練習試合で何度も勝ってきた相手だ。負ける可能性なんてよぎらなかった。勝つ気でしかない。
全国大会のことだけを考えていた。
予定どおり先制した。このまま行けば勝てるはず。

それなのに。

相手チームのフリーキック。
どうして……。ステップワークが間に合わなかった。
いつもの僕なら止められた球だった。いつもの僕なら適切に判断して動けた状況だった。

試合の流れが変わり、追加点を許した。
誰にも責められなかったけど、自分が一番よく理解していた。僕のミスで負けたんだ。

チーム全体のスタンスもあって、すぐに冬の大会に気持ちを切り替えた。
大会前に愛媛県の島に遠征に行き、オフの時間にみんなで海に飛び込んで。
僕が水に入ろうとするその時、一瞬、潮が引いて浅瀬になった。

複雑骨折。冬の大会には欠場した。
決勝戦を終えたキャプテンが泣きながら電話してきた。
手術後の病室で、僕も、隣にいる母さんも泣いた。

「でも、俺が負けたわけじゃない」
この気持ちは、何なんだろう。何かをごまかそうとしているんだろうか。
「俺が出てたら勝ってた。チームは負けたけど、俺の負けじゃない。俺は負け犬じゃない」

どこかいびつなものを感じながらも、直視することができなくて。
全国に出られない悔しさを抱えながら、僕自身このままじゃいけないと感じながら。
がむしゃらにサッカーを頑張る以外の事をする勇気が持てない。

そのまま僕は高校に進学することになる。

掲載日:2018年12月04日(火)

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飲食コンサルタント

砂田康太(すなだ こうた)

3歳のころからサッカー一筋で生きてきた砂田康太さん。他者と自分を比べる気持ちが人一倍強く、もどかしさを感じて生きる学生時代でした。そんな砂田さんが、大学時代のある経験をとおして……。

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