佐藤皓紀 Episode1:「どうせ無理だ」という想い | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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冬のある日、家からとおくはなれたところに家族で遊びに行った。
ホテルに荷物を置いてから、人の大勢いるところに行った。みんなが何かを待っているみたい。
僕もワクワクしてきた。これから何があるんだろう??

雪のなか、向こうから現れたのは、おっきな鬼……みたいな、ふしぎな生き物だった!
「悪い子はいねがー! 」「泣く子はいねがー! 」
僕たちの使う言葉とちょっと違った言葉を叫びながら、そのふしぎな生き物が近づいてくる。

――ここ、泣くとこだな。

そう感じた。

父さんも母さんも、周りの大人たちも、僕みたいな子どもがこの鬼みたいなヤツに怯えて泣き出すことを望んでいる。
そんな気配を察して、僕は大声で泣きだした。
笑顔でなだめる父さんと母さん。慌てた様子もない。
だって、彼らの予想したとおりに僕が振る舞ったんだもの。

そんな3歳の時の秋田旅行のエピソードをはっきり覚えている。ちなみに、僕の家は福島にある。
ちっちゃいころの記憶が何でも残っているわけじゃないんだけど。
あの時の、期待に応えなきゃと泣きだした感覚だけは、はっきりと。
確かに、父さんや母さんの気持ちは、言葉にしない事でも感じ取ってきたところがあるかもしれない。

やりたいと思った事に反対されるとか、気持ちを抑えつけられるとか、そんなコトはないんだけど。
何か、言葉の裏にあるものに気づいてしまう。
「やってみてもいいけど、どうせ無理なんじゃない? 」
そんなものを感じ取ってしまう。僕が察しすぎるだけなのかな??
僕にも弟にも、愛情はたっぷり注いでくれる、普通の両親なんだけどね。

父さんも母さんも帰りが遅いので、学校から帰ると僕はばあちゃんちで過ごす。
ばあちゃんと晩ごはんを食べてから帰宅。今度は両親と晩ごはんを食べる。
小学3年生に上がったある日、自分がとんでもなく太っていることに気づいた。学年一だ。
みんなが一日3食食べるところを4食食べるんだから、考えてみたら当たり前だ……。

人の気持ちを汲み取ってしまうとはいえ、それまではけっこう明るくやんちゃな性格だったと思う。
自分が学年一のデブだと気づいたその日から、僕はすっかり変わってしまった。

こんなデブの、こんな見た目の僕のことが好きだと思う人なんて、この世にいるわけがない。
男の子も女の子も……人間という人間は、僕のことが嫌いなはずだ。そう思い込んだ。
ちょうど、「女子って、男子とは違うんだな」と意識するようになったころだ。
人が怖い。特に、女子が怖い。

クラスの子たちとしゃべったり遊んだりすることが、すっかりできなくなった。
隣の席の女子に、ある時何か話し掛けられたような……でも、そんなわけない。
僕に話し掛ける人なんているわけないんだから。気のせいだと思った。

実は、どうやらそれが気のせいじゃなかったらしい。
しばらくすると、クラスの女子からの風当たりが強くなった。
「ヒロキ! 黒板見えねえよ! 」
大きな体を理由にした暴言や嫌がらせが始まった。
「佐藤くん、話し掛けても無視したのよ。ひどくない? 」ということだったらしい。先生も何も言わない。

人が怖い。僕のことを好いてくれないどころか、攻撃してくるし。
どうしても必要があって話す時は、相手の目なんかとても見られなくて。
顔は真っ赤、頭は真っ白。

本当はサッカーや野球に憧れがあった。
でも、太っている僕には無理だろうから……“ラクそう”という理由で、中学では卓球部に入った。
卓球部は決してラクでもなくて、当たり前だけど運動量が増えた。
このままじゃ嫌だと食事量を減らしたのもあって、体型は目立たなくなった。
環境が変わったこともあって、部内で友達も出来るように。
中2でまたクラスが変わった。ずいぶん雰囲気が変わった。みんな、普通に話し掛けてくる。

でも僕にはそれが苦痛で。
それが大勢じゃなくてたったひとりでも、誰かに注目されているという状況に耐えられなくて。
目を見られると顔に血が上るのがわかる。ほっぺが熱い。僕のほうは、とても相手の目なんか……。

相手の気持ちを考えすぎる癖は相変わらずで、好きな子の親友に告白されると断れなくて付き合った。
付き合えば好きになれるかなと思ったものの、感情なんてそう簡単にはいかないよね。

その子の誕生日が近づくにつれ、「こんな気持ちで祝えないな」と思うようになって、別れを切り出した。
その日の放課後、号泣する彼女を僕の好きな子が慰めていて。
相手の気持ちを考えて断れなかったせいで、余計に傷つけちゃったのかもしれない。

そんなふうに泣かせた元カノの親友のことが本当は好きだ、なんていまさら告白することもできなくて。
スポーツでも、恋愛でも、人間関係でも。
自分の気持ちや希望をまっすぐ言葉にすることができない。

どう思われているのか。これを言ったらどう思われるのか。人の目が怖い。

「どうせ無理なんじゃない? 」
はっきり言葉にされたことはほとんどない、でも端々に感じていた母さんの、先回りして諦める気持ち。
いつの間にか僕自身、自分に対してそう思うようになっていたのかな……。

掲載日:2019年01月24日(木)

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オモロく生きるエンジニア社長

佐藤皓紀(さとう ひろき)

IT 企業の枠を超えて活動する、株式会社 Luxy の佐藤皓紀さん。対人恐怖症や赤面症を持っていた子ども時代から、どんなキッカケを経て人と広く深く関わる生き方に変わっていったのか......?その半生を追いました。

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