私がバレエを始めたのは5歳の頃だった。
それよりももっと小さい頃から私の家はいわゆる『普通』ではなかった。
かっこよくてスポーツも勉強もできる弟。若くて綺麗でかっこいい両親。
みんな元気で明るく、表面はすごく幸せに見えていた家庭。
けど、蓋を開けてみるとそうではなかった。
毎日母を殴り続ける父。それは私も例外ではなく殴られ、時には裸のまま外に出されたり、ごはんをもらえないこともあった。
「このことは秘密にするのよ。」
と言った母の一言で隠さないといけないんだ。でも、これが私の当たり前の生活なんだと思った。
不思議と自分の家が『普通じゃない』と思ったことはなかった。どこの家庭も父親は殴るものだと思っていた。
「きっとみんな秘密にしてるだけなんだ」
「みんな殴られたりしてるのを内緒にしてる」
「辛いのは自分だけじゃない」
そう納得していた。
そんな時に出会ったバレエ。
最初は母にすすめられて嫌々やり始めたものが父親に止められることがなく自由で生きがいだった。
踊っていれば辛いのも忘れられた。唯一発散できる場所だった。
掲載日:2017年05月10日(水)
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ダンスカンパニーUzme団長
ダンサー・振付師
大瀧冬佳(おおたき ふゆか)
ダンスカンパニーUzmeの団長として様々な舞台で活躍する大瀧冬佳さん。様々な苦難の中でも、決して見失うことのなかったダンスという一筋の光。「踊るために生きていたい。」彼女を支え、突き動かした唯一無二の生きる意味が、今度は誰かの光になるように。