翌年、28歳。僕はある案件を引き継いだ。社内で一番の大口取引の案件を、なぜか急に引き受けることに。
急とはいえ、いつもどおりの引き継ぎだった。
「普通に対応してくれたらいいからね」
そう言われて担当した矢先、取引先からの怒号が飛んできた。
「どういうことだ!? そっちのミスだから問題なく処理するって言っただろ!? 」
取引先のカード会社の全回線が、料金未納で停止。
顧客にはまるで倒産したかのように見えてしまう。信用に関わる大問題が……。
何も知らされていない僕は大パニックに。
「その、何が起きたのか僕にも……」
「ふざけるな! てめえが責任者だろ!? 」
上司にも、そのまた上にも、なぜか庇ってもらえない。何を聞いても事情を説明されるどころか、糾弾される。前任者には連絡がつかない。
「何も聞かされてない? てめえが聴いてなかっただけだろ! 」
ワケがわからない。この事態を避けるために、何も知らない僕に何ができたというのか。
だけど、責任者は確かに僕。責められ、罵られ、泣きながら頭を下げる。これが、責任を負うということ……?
そのなかで、全貌は見えないものの、何が起こったのかが少しずつ察せられてくる。
サービス切り替えの際に前任者が処理をし忘れた事への対応が、後手後手になったらしい。
回収できない問題に膨れ上がったなら、会社として誰かに落とし前をつけさせなきゃいけない。
だから、僕に……。
会社で何を言っても聴いてもらえない。数年前に結婚していたけど、もちろん妻にも話せない。
誰にも真実を理解してもらえないまま、すべて僕が悪いということにされた。
僕のせいで、会社の一番の大口取引をすべて失った……ことになった。
取引先に謝るのはまだわかる。
会社の落ち度には違いない、そして僕はこの件の責任者だから。
だけど、部下である僕の言い分を一切聴かない上司やそのまた上が手を組んでいること。
僕ひとりを人柱にこの件を片づけようとしている会社の意図。
これが、わかってしまったから。
その事実に絶望した。
あの時と同じだ。
会社内のむちゃくちゃな教育に耐えかねて人ひとりが命を絶ったのに隠蔽された、あの時と。
会社は社員を人として見てなんかいない。
より大きなものを守るために、人の命や尊厳を踏みにじる。
ひとりひとりは心を人の心を持っていても、それは会社組織の論理に絡め取られる。隠蔽や冤罪に加担することさえある。
それは、中学時代のいじめとも同じ。
理不尽な事は、パワーでまかり通る。多勢に無勢。
自分を守ろうと戦う気力も残らないほど徹底的に潰された、心。
正義も真実も、求められていない。僕が犠牲になることが望まれている。
僕がすべてを引き受けることだけが望まれている。
会社は、僕の味方じゃない。
上司も、同僚も、味方じゃない。僕の話を聴く人はいない。
僕に、味方はいない。
僕にここにいてほしいと思う人は、いないんだ。
「だいじょうぶですか!? どうしたんですか!? 」
肩に重みを感じた。
これは、人の重み。人のぬくもり……?
振り返ると、見知らぬ駅員さんが僕の肩を抱えていた。
ああ、僕は、いま……。
掲載日:2018年12月05日(水)
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大畑亮介のエピソード一覧
株式会社 Lante 代表取締役社長
大畑亮介(おおはた りょうすけ)
会社員をはじめとした個人に寄り添うことを事業として会社経営する、大畑亮介さん。「寄り添うこと、相談することを日本の文化にしたい」という大畑さんの想いの根底には、いくつもの大きな挫折体験がありました。