大畑亮介 Episode2:力が、力が足りない。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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大手通信会社に就職、新卒で赴任した北海道での3年間でゆったり育ててもらったところから一転。
25歳で東京に戻った僕は、完全に自信を失っていた。

直属の上司からの叱責。成長を期待しての愛のムチ……なんてキレイなものじゃなくて。
「ホントお前、生きてる意味ないよな」
「何のために会社にいんの? 」
こんなのが毎日だ。文字どおり、毎日。

営業は数字がすべて、成績がすべて。追い立てられる感覚に、再び襲われる。
もともと要領のイイほうじゃないのに加えて、人格否定をされながら本来の力を発揮するなんてどだい無理な話。
必死に努力しても成績は振るわず、全営業のなかで最下位の数字を出したこともあった。
当然、叱責は増す。負のスパイラルから抜け出せなかった。

そんな状況だったので、同じような想いをしている新卒の子たちの様子も気になった。
僕と違って入社直後にそんな環境に放り込まれたら、どんなにつらいだろう。
傍に誰かひとりでも、ガス抜きをしてやれる存在がいたら。

「しんどそうだけど、どうだい? 今度メシ食いに行こうよ」
何人かの後輩に声を掛け、一対一で話を聴いたり食事をしたりするようにしていた。

会社の在り方を変えることはできなくても、いま目の前で苦しんでいるこの子たちの力に少しでもなれたら。

そのなかのひとりに、とってもマジメな子がいた。
家庭環境が大変で、家族を支えるためにも自分がしっかり稼がなきゃと責任を感じていて。
その想いと裏腹に、成績は伸ばせない。自分を情けなく不甲斐なく思ってしまう。

僕もそうだけど、叱られてばかりの環境で力を発揮することなんかできないんだ。
会社に入って1年や2年で劇的な成績を出すなんて、ほんのひと握りの人間で。
多くのマジメな人間は、今日明日の成績や能力で評価されることなく長い目で見て育てられてこそ、力を伸ばすもの。

「そこまで焦らなくていいんだよ。まだ2年目じゃないか」
「僕も北海道での3年間があったから、いま厳しくてもなんとかやっていられる。力を抜くってことを覚えたほうがいいよ」

でも、若さというやつだろうか。
彼は、あくまで自分の能力不足を責めてしまう。すべての問題を自分のせいだと引き受けてしまう。

僕の言葉は、想いは、届かない。

「自分で成績挙げてもいねえのに、よその後輩の面倒見てる余裕あんのかよ」
立ち回りのうまい同僚にチクられたんだろう。上司が凄んできた。
「あっちにはあっちの上司がいんだよ。お前が余計な事するとあっちの上司からクレームが来る。次やったらどうなるか覚えとけ」

歯ぎしりをしながら……でも、圧倒的に力が足りない。僕がこれ以上動いたら、彼にも被害が及ぶかもしれない。

「こういうわけで、会社内では声掛けれなくなったけど。メールででも、いつでも話してくれよ。溜めるんじゃないぞ」
彼にそう伝えて、しばらくやり取りをして。

そのやり取りが数週後に途絶えて。

僕のほうも忙しさを増して。

「大畑、もしかして……知らないのか? 」

彼が命を絶ったことを同僚から聞いたのは、最後のメールの何ヶ月後だっただろうか。

掲載日:2018年12月05日(水)

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株式会社 Lante 代表取締役社長

大畑亮介(おおはた りょうすけ)

会社員をはじめとした個人に寄り添うことを事業として会社経営する、大畑亮介さん。「寄り添うこと、相談することを日本の文化にしたい」という大畑さんの想いの根底には、いくつもの大きな挫折体験がありました。

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