大畑亮介 Episode1:自分らしさを思い出して。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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“べき論”みたいなもののなかで育ったのかもしれない。
ごく普通の愛情深い両親なんだけど、「こういうものでしょ」「こうじゃなきゃダメでしょ」という気配が強かった。
そのせいか僕も、曲がった事や理不尽な事が嫌い。

“べき論”が人として大切な正義感を育んだ反面、窮屈に感じることもあった。
いつも何かに追い立てられている感覚がある。

中学受験を希望した僕は、週5で塾に通うようになった。
年末年始以外毎週試験があって、成績が貼り出される。母さんの基準より順位が下がるとひどく叱られる。
普通に大学まで出て、良い会社に入って、定年まで勤める――そういう価値観の両親だ。

入った中学校では、修学旅行の代わりに年に2回キャンプがある。
サマーキャンプの帰りのバスで、家族のためのお土産を棚に置いて僕はうとうとしていた。

はっと気づいた。床や座席に散らばるお菓子の食べかすは、さっき僕の買ったそれだった。

「何すんだ、お前ら!? 」
クラスの主要グループを相手取って大喧嘩。ただ、多勢に無勢だった。

陰湿ないじめが始まった。
「言いたい事あんならはっきり言えよ! 」
陰口が耳に入るたびに、初めのうちは食って掛かっていた。正当性のない攻撃に泣き寝入りする理由なんかない。

だけど、先にも言ったように敵は大人数。持久戦に持ち込まれたら、守る側の力は削がれる。
1ヶ月、2ヶ月……毎日、毎日だよ。
自分のために、正しいと信じるもののために戦う気力は、残らなかった。

理不尽な事は、パワーでまかり通るんだ。

出る杭は打たれる。戦っても傷つくだけ。何も変わらない。

高校に進むといじめはなくなった。それなりに話したり仲良くしたりする友達は出来た。
ただ、いつも気を遣う。毎日、彼らと別れると独り反省会の始まり。
「ああやって返したけど、嫌な気持ちにさせなかったかな」
「笑ってくれてたけど、腹のうちでは笑ってないかも。周りに何か言われてないかな」

正しいと信じるもののために声を上げても、自分が傷つくだけだから。そんな無駄な事はしない。
とにかく波風を立てないように。相手が嫌がる事をしないように。
多少のイジリに本気で怒ることなんかせずに、穏便にいなして。
本心で付き合う友達の出来ない虚しさにも目をつむって。

中学のころから良くなかった成績。
高校ではいよいよ勉強に身が入らなくて、受験直前の模試で偏差値43なんて数字を出したことも。

「大学に行けなかったら終わりだわ。受験も近いのに勉強もしないで、この先どうするの!? 」
取り乱す母さんが煩わしくて、怒鳴り返したり、部屋にこもったりする。

大学に行かない生き方なんて、考えられない。
だからといって、これじゃとうてい受からない。
浪人したら? 浪人したら僕が壊れそうだ。これ以上の焦燥感には耐えられない。
母さんの求める息子像に当てはまらないことに焦り、僕自身なんとか型にはまらなきゃと焦り……。

そんななかで最後に受験した1校に受かったのは、奇跡としか言いようがない。
もう戻れないと思っていた“普通の道”に戻れたんだ。安堵のあまり、涙がこぼれた。

「亮介、そんな気ぃ遣わなくていいんだよ? 」
テニスサークルの合宿で長野県に行った。日ごろから良くしてくれる先輩のひとりが、僕にそう言った。

進学校だった、ある意味おカタい高校時代と環境が違いすぎて、最初は面食らった。
バカな事を言ったりやったりしながら信頼関係を築いているサークルの先輩たち。
日ごろはじゃれ合っていても、ミーティングなんかはビシッと締めて。
自分のことがうまく表現できない僕を見守り、かわいがってくれる先輩もいる。

「こんなふうに心を通わせる人間関係があるのか」
少しずつ心を開いていった。そんななかで言われた、「気遣わなくていい」という言葉。

真心からの気遣いはともかく、人を傷つけないために自分を殺してまでする気遣いは要らない。
相手を思いやり自分を大切にしているという前提があれば、バカやってもいい。おちゃらけてもいい。勉強できなくてもいい。
僕というものを出してもいい。むしろ出せと言われる。
そんなふうに受け入れてもらえる環境だった。初めて見つけた僕の居場所。

そういえば、小学校低学年のころまでは、僕ってもっと明るかったかもしれない。
クラスでも楽しく過ごしていて、女の子にもモテた。でもそんな自分のことをすっかり忘れていて……。
両親の持つ理想的な子ども像に自分を押し込めたり、理不尽が許せなくて潰されたりして、僕が僕を見失っていた。

でも、何年見失っても、僕のなかにはちゃんと僕らしい僕がいた。
成績や順位で評価される僕じゃなくて、僕という個として笑ったり泣いたり友達と交流したりする僕が。
それを見出してくれた先輩や同期たちとの時間は、僕の心をとかしてくれた。

本来の僕を表現しても受け入れてもらえる環境。
僕自身が、数字や“こうあるべき”という価値観で自分を裁くことをやめたのかもしれない。

僕は、僕として生きていいんだ。僕らしく、仲間を大切にして、僕は生きてゆきたい。

掲載日:2018年12月05日(水)

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株式会社 Lante 代表取締役社長

大畑亮介(おおはた りょうすけ)

会社員をはじめとした個人に寄り添うことを事業として会社経営する、大畑亮介さん。「寄り添うこと、相談することを日本の文化にしたい」という大畑さんの想いの根底には、いくつもの大きな挫折体験がありました。

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