カルロス Episode4:ホンマもんのワルだったからこそ。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

» カルロス Episode4:ホンマもんのワルだったからこそ。

目標は固く握り締めていたが、ほかはないもの尽くしだった。
仕事は決まっていない。親戚も友達もいない。住むところはおろかその晩寝る場所も決まっていないのだ。

毎晩スナックやガールズバー、ホストクラブ、居酒屋の戸を開けた。
「金は要らないんで、手品やらしてください」
ギタリストなんかが一昔前にやっていた“流し”というやつだ。
タダならどうぞ、とたいていの店主は言ってくれる。客に披露すると、なかにはチップをくれる客もいる。
ひと晩で3,4軒回っても収入にならない日もあれば、ひとりで5万円くれる人もいる。
収入にならない時でも、「ご飯食べて行きな」とタダ飯タダ酒を頂くことが多かった。
公園やネットカフェで暮らしながら、週に5回酒を飲む、そんなホームレスだった。大勢の人に助けられた。

流しで稼いだり出張音楽教室をやったりしながら金を貯め、
2009年4月9日、初代引田天功にあやかり大田区の池上にアパートを借りた。
2013年に池上に最初の店を出し、紆余曲折を経て2017年5月にリニューアルオープン。
“両手”を意味する「LAS MANOS」というマジックバーを、いまは品川区で経営している。

悪さを競っていた大阪のあの後輩とは、いまでは人の役に立った事で競い合っている。
ボランティア活動や慈善活動は記録が残らないのでカウントせず、
年に献血した回数を競って負けたほうが勝ったほうの住んでいる場所、大阪か東京に行き、勝ったほうに焼肉とキャバクラをおごる。
鑑別所に入った回数や犯した犯罪のスケールで競うよりずっと気持ちがイイ。ただ、絶対に負けられないが。

勝負にカウントしないだけで、月1万くらいの途上国のチャイルドサポーターなどもしているし、
仕事は別に少年院や老人ホームなどへの慰問のショーや講演は無償で受けている。

よくある政治家や弁護士先生の「昔はワルだった俺もこんなふうに変わりました」という物語は、
本当に絶望した少年、ホンマもんのワルには通用しないのだ。
先生方の言うワルなどたかが知れている。
「ワルいうても、その程度やん」「弁護士ンなれるアタマのある奴はええわな」と冷めた目で見られるのがオチだ。

だから、俺が慰問に行く意味がある。俺は、ホンマもんのワルだったから。
何度も何度も警察さんのお世話になった。
罪を償っていない事など数え切れない。時効になるまで逃げ切っただけだ。
いまでも、俺に騙されたり脅されたりした傷の癒えない人はいると思う。
そんな俺が名前と顔を晒してマジシャンとして活躍することを心底憎く思う人もいるだろう。

そんな俺がその世界から立ち直ったからこそ届く声というものがある。
それに、有名になればなるほど、隠していても昔の事は広まってゆくものだ。してしまった事をなかったことにはできない。
賛否は分かれるだろうが、過去に傷つけた人をさらに傷つけたり不快にさせたりするリスクを負ってでも、
俺はマジシャンとして、 カルロス・ニシオ・セルバンテスとして顔と名前を出してこれからも活動してゆくつもりだ。

メンタルマジックの限界を破ろうと、俺のしゃべれる日本語、スペイン語、中国語の通じない国も回るヨーロッパツアーをしたり、
フラメンコとマジックを融合させるためにスペインのアンダルシア地方にフラメンコを習いに行ったり。
挑戦したい事は尽きないので片っ端からやっている。
ゆくゆくは孤児が普通教育を受けるきちんとした学校を南米のどこかの国に建てて、擬似家族として暮らしたい。

人には、必ず優しい心がある。捨てたつもりでいても、忘れた、なくしたと思い込んでいても。
少年院に入るような子どもたちでも、夢の持てない大学生でも、どこからでも、いつでも必ず人は変われる。
夢を持ったり思い出したりできる。それが早いに越したことはないけれど。

更生することが人生の目的、などという馬鹿馬鹿しい話はない。
いまいる場所が少年院だろうが大学だろうが意に沿わない会社や家庭だろうが、
絶望から立ち上がり、夢や希望を持ち、充実して生き、また人を喜ばせる喜びを知る人生は選べる。
もちろん、俺が言わなくても気づく人はいる。だが、俺が言わなければその心に届かない人もいる。ならば、俺がやらなくて誰がやる?

あなたにも、きっとそんなものが見つかるはず。
人に迷惑ばかり掛けてきた俺がいま胸を張って言う、これが俺のKeyPageです。

掲載日:2017年10月20日(金)

このエピソードがいいと思ったら...

この記事をお気に入りに登録

マジシャン(メンタリスト)

カルロス・ニシオ・セルバンテス(かるろす・にしお・せるばんてす)

9歳でマジシャンを志したメンタリスト、カルロス・ニシオ・セルバンテスさん。過酷な幼少期、逮捕歴もある青年期を経て、ある日……そんな自分にも残っていた優しい心に気づいたきっかけとは?

エピソード特集