勤め先の倒産など紆余曲折を経て、29歳の時に司法書士を志し専門の塾に通い始めた。
国家試験に4度失敗し、33歳にして浪人生という立場の僕。貯金も底が見えてきたので、アルバイトをすることに。
背に腹はかえられないこの状況、割の好い仕事を、と出会い系のサクラのバイトを始めた。
源氏名は「レイカちゃん」。33歳の僕がレイカと名乗って男たちの相手をする……そんな日々が始まる。
出会い系なので、ユーザーたちはなんとか僕と会おうとする。
けれどもサクラである以上、ユーザーとは会えない仕組み。そういう仕事だ。それが仕事なのだ。
なんとかして会えない理由を作り出してゆく日々に、良心の痛みは増すばかり。
入社して1ヶ月。トップ成績を出していたものの、
「このままじゃ、本当に人間が腐ってしまう……」
葛藤は尽きなかった。
法律家をめざしている人間が、グレーゾーンとはいえ、こんな事をして……人を騙してお金を稼いでいるなんて。
ある日、思いきって社長に相談。胸の内の葛藤をすべて話してみた。
すると社長は言った。
「西村、俺たちは夢を売ってるんだよ」
お金を払わなければ恋愛できない男たち、いや、お金を払っても恋愛できないかもしれない男たちに、お金と引き換えに夢を与える。
恋愛をしている、恋愛ができるのだという夢を与える、そういう仕事なのだ。
淡々と語られる恋愛ビジネスの現実。僕は悟った。これ以上、ここにはいられない。
社長の語る恋愛ビジネスのルールに黙って加担し続けられない僕は解雇され、僕もそれを受け入れた。
帰り道……はらはらと泣けてきた。
グレーでダークな恋愛ビジネスの現実に。
誰もしあわせにしないビジネスでお金が回っている現実に。
そこにお金をつぎ込んでしまう男たちが大勢いるという現実に。
間違った事を言っていないはずの僕の意見の通らなかった現実に。
悔しさにしばらく泣いてから、はたと立ち止まった。
僕がクリーンな恋愛ビジネスを作ってやる。
何の実りもないビジネスにお金を注ぎ込む男たちがいるということは、満たされていないニーズがあるということ。
そのニーズにきちんと応えられる受け皿がないからこそ、誰もしあわせにしない恋愛ビジネスが成り立つのだ。
だったら僕がその受け皿を作ろう。僕のようにサエない学生時代を過ごした男性たちの力になりたい!!
男性専用の恋愛予備校をやろう。
付け焼刃のテクニックを身につける場や恋愛した気になれる出会い系ではなく、本当に魅力的な男を育てる恋愛予備校を作ろう。
ようやく見つけた僕の使命。
悔しさに震えていた僕は、いつの間にか、使命を見つけた喜びに心震わせていたのだった。
掲載日:2017年09月01日(金)
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東京ラバーズアカデミー代表
西村義信(にしむら よしのぶ)
男性向け恋愛予備校「東京ラバーズアカデミー」を経営する西村義信さん。昔の自分のような男性たちのためにと奮闘するなかうつ病を発症、その克服過程で気づいた、人生の本当の支えとは……?