高校生になり働ける年齢になったら、すぐに働こうと決めていた。
「うちはお金がないから貧しいんだ。だから混乱している」
お金さえあれば前のような家族に戻れる……かもしれない。
たとえどんな人でも、私の母親はお母さんしかいない。
もうお金のことで苦労させたくない。お母さんに笑顔でいてほしい。
私は、ずっと心の片隅で母の愛を求めていた。
お小遣いも絶対もらわない。自分で稼いで見せる。
まだ冬の気配の残る15歳の3月。
商店街のアルバイト募集の張り紙のあるところすべてに頭を下げて回った。
「お願いします。ここで働かせてください。来月高校生になりますから!」
最後の店を出て、帰路につく。
もうすぐ桜の咲く季節なのに、すごく寒く感じた。
座っている自転車のサドルはあったかい。冷え切った心との温度差に、私の体はついてゆけてないようだった。
――どの店もダメだった。
できればいっぱい泣きたいのだけど、泣けなかった。心と体がなかなかリンクしなくて、それがますます辛い。
「どうしよう」
家を出る勇気もなくて、あそこに帰るしかなくて、なんとか雇ってくれるところを探したら、パン屋さんが雇ってくれた。
パン屋さんでの仕事は私にとって好機だった。
「あら、今日もこんなにあるん?」
廃棄のパンを持って帰ると、母は喜んでくれた。
その瞬間だけは少しだけ、生きている心地がした。
掲載日:2017年08月25日(金)
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西村直子(にしむら なおこ)
生活苦から母が働きに出た――それがすべての始まりだった。 精神的に安定しない母、死ぬことよりも生きることの方が苦しかった学生時代。そんな私の悲しいidentityは、とある少女との出会いで崩壊した。