「AVやってみない? 」
社長に掛けられた言葉に、私は即答できなかった。
19歳になっていた私は、グラビアアイドルとしてそれなりに活動し、ヌード撮影もするようになっていた。
トップを勝ち取る覚悟の持てぬまま芸能界に入り、縁あって事務所にも所属した。上には上がいることを知り、努力をしてみようかなという気持ちもおのずと増していった。
強かった承認欲求が、自分の努力次第で少しずつ満たされてゆく。
自分の撮られた写真をスクラップし、よりかわいくきれいに撮られる角度や表情を研究した。自分より売れている子やかわいい子の写真も切り抜き、研究対象にした。
小学生からアイドルをやっています、という子でなければ通用しなかった時代。
うんと遅咲きだった私は遅咲きなりに努力を覚え、遅咲きなりのルートで、この業界の楽しさを知り、上を上をとめざしていった。
事務所の意向としては、初めから、いずれはAVでという戦略だったらしい。
年齢的にアイドルでは売れないからグラビアアイドルとして活動させ、その楽しさを覚えさせてからアダルトに、AVに、ということだったようだ。
そのAVの話が、事務所からメーカーへの売り込みではなく、メーカーからの逆指名で私に入ってきたのだという。
人前で脱いで撮影することと人前でセックスをすることはさすがに違う……。そんなためらいと同時に私のなかに生まれたのは、「私の仕事が評価されたんだ」というおもいだった。
「もっともっと上に行ける。もっともっと上が見てみたい」
名前も顔も知らぬファンから手紙が日に何十通も届き、30万円もするヴィトンのバッグが贈られてきたりするような業界で、私の承認欲求は私をより上に押し上げてくれた。
「AVで稼げる額はこれまでと違う。ビジネスとして、未来への投資として捉えなさい。大きなお金を稼いで、こうしたいあれがしたいといずれ明確に見えた時に動くための資金として使うんだ」社長の言葉が後押ししてくれた。AV女優としてデビューし、私の世界はさらに広がった。
掲載日:2017年06月23日(金)
このエピソードがいいと思ったら...
小室友里のエピソード一覧
ラブヘルスカウンセラー
小室友里(こむろ ゆり)
AV女優として一世を風靡し、現在では男女の性やコミュニケーションについて執筆、講演活動をされる小室友里さん。語っていただいたその性の原体験は、意外なものでした……。