石神敬吾 Episode3:たったひとりを救うビジネスを。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

» 石神敬吾 Episode3:たったひとりを救うビジネスを。

12人いた同期が3ヶ月で3人になる会社だった。
そのつもりで入社した僕は自分なりに工夫し、すぐに結果を出し、月100万円くらい稼げるようになった。
東京に友達のいない僕は、社会勉強も兼ねて退社後キャバクラに通ったりもした。
営業力を身につけるために、という目的が途中から変わってしまったのはご愛敬だ。

欲しかった営業力が付いて自信も持てたし、将来事業をするためのお金も稼げるし、これでよかったと思っていた。
でもどこか孤独感があった。東京という土地が肌に合わないのかな……。
通勤中でも休みの日でも、いつも空を見ながら歩いていた。空を見上げながらいろんな事を考えていた。

28歳、池袋にあるその会社に勤めて数ヶ月になるころ。いつものように僕は会社に向かっていた。
そのころ忙しくしていて、少し余裕がなかった。空ではなく前を向いて急ぎ足に歩いていた。

通勤路の途中にある建物を通り過ぎるその時――

聞いたこともない「パァン!!」という高い音が耳をつんざく。振り返ると、二十歳くらいの女の子がうつ伏せに倒れている。
……その顔を僕のほうに向けて。

何をすべきか。どこに助けを求めるべきか。
とっさの事に、僕は何も動けなかったしわからなかった。

けれども、はっきりわかった事があった。

自殺だということ。そして、彼女がもう助からないということ。

取り乱しているあいだにほかの通行人が救急車を呼んだ。
白い車体に担ぎ込まれ、僕の視界から消えていった彼女の体。
視界からいなくなったはずの彼女の姿だが、僕の頭からは消えなかった。

昼間は仕事に集中してやり過ごしても、夜になるとその姿が脳裏に蘇る。
僕のほうを向いた女の子の顔。激しく損傷した肉体。パァンという高音。
あの子がその人生の最後に見たのは、僕だったんだろうか……。

見ず知らずの女の子。
知り合いが亡くなったわけじゃないんだから、事前に手を差し伸べることなんかできっこなかったのに。

無力感に苛まれた。
『なんとかして助けられなかったんだろうか』
『あの子を助けることは、僕には絶対に、絶対にできなかったんだろうか』
『いつもみたいに上を向いて歩いていたら、飛び降りようとする彼女に気づいて、大声で止められたかもしれない』
『あのビルの非常口から下を見た時、もしも僕がスキップでもしていたら……
「人生捨てたもんじゃない」なんて思いとどまってくれたんだろうか』
『あの子は僕に当たらないように飛び降りたんだろうか。だとしたら、僕はあの子の最後の優しさをもらったことになるのかな』

夜な夜なそんな事を考える。どうしても、どうしても助けられなかったんだろうか……。

そして、思い至った。

あのビルの非常口の扉を押し開けた時点で、彼女の意志は固まっていた。
彼女のような人を減らすには、そこに立つ前の段階で手を差し伸べていなきゃいけない。
自殺を決意する前の前の前の……もっと前の、何とかできる悩みの段階で頼れる場所や存在がなくちゃいけない。

調べると、悩み相談を電話やメールで受けるサービスはたくさん見つかったのに、手紙を使ったサービスだけがなかった。
これじゃないか。これなんじゃないか。あの子のような悲しい最期を選ぶ人をひとりでも減らすために僕にできる事は。

あの子の最後の優しさを受け取った僕だ。
あの子を助けるためだけのビジネスをしよう。

100人中100人に求められるサービスじゃなくていい。たったひとりでも救われる人がいればそれでいい。
自己満足に過ぎないけれど、僕が前に進むための答えのようやく出せた瞬間だった。

【お手紙屋さん】サービスの試行錯誤は、そこから始まったのだった。

掲載日:2018年02月09日(金)

このエピソードがいいと思ったら...

この記事をお気に入りに登録

お手紙屋さん

石神敬吾(いしがみ けいご)

相談者のお悩みに心のこもった手書きのお手紙を送るサービス【お手紙屋さん】を運営する石神敬吾さん。異色のサービス開業のきっかけは、28歳の時に遭遇した痛ましい出来事でした……。

エピソード特集