それから長い時間をかけて、カラッポだった自己肯定感を養っていった。
私に足りないものは苦労しながらも経験のなかで少しずつ積み重ねていった。
恋人という存在ができて、人に認められる経験をして。
就職して、仕事を通して真っ当に誰かに必要とされる経験をして。
自分の経験を人に話すことで、自分自身を受け止め直す。
どれも一筋縄ではいかなくて苦しい時もあったけど、
少しずつ少しずつ、自分を許し認めてあげる行動をとる。
そして、勇気を出して、これまでの私を育てた父と母に、辛かった頃の話を本気で伝えることもした。
それは、ある日、呑んだくれて帰ってきた父と母が朝方まで喧嘩をしていて、仲裁に入った時。
……もう我慢の限界。
母と喧嘩する父を見ていて、無性に腹が立ってきた。
「もうさ……謝れ!謝れー!」
堰を切ったように叫ぶ。
「どれだけ偉そうに、お母さんに何言われてもな、一生頭上げたらあかんよ!
お母さんが働いたからここまでなんとか生きてこられたんや!
それやのに、ここまで人に迷惑かける筋合いあるか!」
今まで精神的におかしくなる程母を苦しめた父に、私は怒り、本音をぶつけた。
豆鉄砲をくらったような母の顔。
(あんた、私の味方でいてくれるの……?)
そんな目つきでこちらを見ていた。
お母さんも生きるのに、ただただ必死だったのかもしれんね……。
そう思えてきて、私は母を抱きしめた。
一度、お母さんを受け止めてあげよう。そしたら、私のこと、受け止めてくれるかな……。
その後、母にもこれまでの全ての感情、経験を話した。
悲しみも苦しみも、寂しさも。
(私の記憶、気持ち。嫌でも全部受け止めてみろ!)
そんなやけな気持ちも半分。
でもそれで良かったみたい。
私の心の確執はみるみるほどけていった。
「やっとお母さんをつかまえた気がする」
母を許せた瞬間だった。
掲載日:2017年08月25日(金)
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西村直子(にしむら なおこ)
生活苦から母が働きに出た――それがすべての始まりだった。 精神的に安定しない母、死ぬことよりも生きることの方が苦しかった学生時代。そんな私の悲しいidentityは、とある少女との出会いで崩壊した。