でも、どうしても憧れを捨てられなかった。
とにかく芝居がしたくて、より良い役者になりたくて、大学1年次にネットで見つけたオーディションを受けに行った。ワークショップ形式のそのオーディションが大変興味深く、オーディションには落ちたのにその演出家の方に食らいついた。
「招き猫みたいに、隅っこにちまっと置いてもらうだけでいいんです」
「雑用だって、何でもしますから」
「もっと勉強したいんです」
その熱意が通じ、ある現場で使ってもらえることになった。
その後、その演出家の方が行ったワークショップに参加した時のこと。偶然その場に同席していた、やたら存在感のある
髭っぽい男
謎のイケメン
羽生結弦(似)
………の3人に
「お前、頭おかしいんちゃうか」
「おもろいな」
と言われ、彼らの劇団に誘われた。
それが劇団「ゼロリミット」との出合いだった。
たいして芝居もみてもらっていなかったのに、第二回公演からいきなり役者として使ってもらうことになった。舞台に立ちたいくせに、自分の演技に自信がなかった私は、オファーを受けてしまったことを申し訳なく思い、稽古場でも、無意識のうちに消極的で一人ぼっちの芝居をしてしまっていた。
わたしはいったい何がしたくて、こんなすごい方々の一緒にいるのだろうと、自分を責める日が続いた。
しかし、稽古の帰りに一緒の電車になった演出家の瀬戸さんは、
「そのまんまでいい」
「夢の思うようにやれ」
と言ってくれた。
ずっと、自分を消して、役を憑依させるように演じる人が、真の役者であり良い演じ方なのだと思っていた。それができない自分は二流で、つまらなくて、それなのに演じることがやめられなくて……。けれども、そうでなくても好いと言ってくれる人がいた。ゼロリミットで演じながら、瀬戸さんやいろんな先輩方が教えてくれる。
自分を役に近づけるのか、役を自分に近づけるのか。
前者のできる人はそれで好いのだけど、決して、後者も不正解ではない。
むしろ、後者にしかできない「味」もある。それを突き詰めて好いのだ。
それから私は、自分はどうがんばっても自分なのだから、自分という人間を丁寧に突き詰め経験を積み重ねることで、自分としての真実の言葉を紡ぎ出していこうと、思うようになった。
それならば、私にもできる。それならば、人間生きていれば誰にでもお芝居はできる。
お芝居をライフワークにすると決めたのは、それに気づけたからだ。
掲載日:2018年11月28日(水)
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鈴木夢(すずき ゆめ)
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