進谷憲亮 Episode1:大切な人達の力に……医者を志した瞬間。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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一生この町で生きると思っていた。
温かい家族。地元愛の強い小学校に中学校。
福岡県の京都郡苅田町に生まれ育った僕。町から出るなんて考えたことがなかった。
「あんたの好きに生きなさい。人様に迷惑さえかけんかったらいいよ。
私達はあんたを信じちょるけん」
母はよくそうやって言ってくれた。父はそれをいつも黙って聴いていた。
大好きな家族や、僕を支えてくれる友人達とずっと一緒に過ごすために、どんな仕事に就くのが
いいんだろう。
漠然とそんな事を考え始めたある時。

「しんけん!しんけん!!!先輩が……」

卒業したバスケ部の先輩が亡くなったという知らせだった。
優しくてリーダーシップのある部活のキャプテンで、皆に慕われていた。
もちろん僕も大好きだった。
葬儀の日。棺に取りすがって我が子の名を叫ぶお父さんの姿がそこにあった。

「人が亡くなると、家族はこんなに……」

生き物は好きだったし、ペットが死んだ時には涙ながらに家族みんなで山に埋葬に行ったりした。
もともと命というものを意識していた方だと思う。
それでも、直接親しく交流していた人が亡くなり、その家族の悲嘆に接した衝撃は、大きかった。

人生で一番つらい目に遭うのは、自分や親しい人の死の瞬間なんじゃないか。
もしも僕がその最期の時間に関わっていたとしたら、「長い間お疲れさま」と言葉を掛けて見送るこ
とができるんじゃないか。
そして、残された家族に対してもいくらかの力になることができるんじゃないか。

この町で家族や友人達と生きるために。
中学生の僕は、医者になることを心に決めたのだった。

苅田町から離れるつもりのなかった僕だけど、医者になることを考え、
地元の高校よりレベルの高い、少し離れた高校への進学を目指すことにした。
いつも一緒に登下校する仲間と帰りながら、僕だけ教科書を読む。
それまでと同じ様に、放課後は友だちの家に皆でダベりに行くのだが、
その頃からは僕だけ別室で勉強させてもらう様になった。
いきなり勉強なんか始めた僕のことを煙たがることもなく、彼らは側にいさせてくれた。
そして、いつも応援してくれていた。

それでも中々成績が伸びなかった時、三者面談で担任の先生が僕と母にこう言ってくれた。
「進谷くんは馬に喩えると、みんながその辺に転がってる人参を食べているのに、
進谷くんだけは、なぜか木に引っ掛かってる届きそうで届かない人参を取ろう取ろうとして、
最後には必ず取ってくるタイプですから。信じて大丈夫ですよ」
先生のこの言葉を実現するためにも、絶対に受かってみせる。そう誓った。

多くの人に支えられて僕は、その高校に合格。
合格発表の日、合格者はみんな学校の体育館に集まった。体育館に入ると同時に、喝采が。
「しんけんがK高校に合格したぞ!」「おめでとう!やったなあ!!!」

中学校でも家でも大騒ぎだった。
父方のおばあちゃんには「浮かれてちゃいけんよ。受かったこれからが大変なんよ」と言われた。
母方のおばあちゃんにも
「また、お医者様に一歩近づいたね。けんちゃんは本当にすごいね。
でも、先生、先生って呼ばれる人間にろくな人間はおらんから、気をつけないけんよ。
お医者様として責任を持って。
飛行機の中で、お医者様いますかって言われて、手ぇ挙げられん様な医者にはなっちゃいけんよ」
と言われた。
まだ高校に合格しただけなので少し気の早い話だが、おばあちゃん達の言葉はしっかり胸に刻まれた。

ただ医者になるんじゃない。
目の前の困った人のために知識も技術も、そして勇気も持った医者になろう。
そんな決意を胸に、僕は高校に進学したのだった。

掲載日:2018年12月03日(月)

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