酒井よし彦 Episode4:生かされて、生きる。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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友人と風俗媒体を立ち上げた。
前職と同じように風俗店から広告をもらい取材などを行うのが主な仕事だ。

初めのうちはフリーランスのカメラマンに撮影を任せていたものの、掛けたお金に対して写真のクオリティは……。

「俺がやろう」
写真の経験なんかまったくなかったので、広告のサービスの一環として無料で撮り始めた。
40歳のカメラマンデビューだ。

1年で800人以上撮らせてもらった。それだけ撮れば、どんな素人でもうまくなる。
しかも幸いしたのが、風俗業界という特殊性。
「バカ野郎! こんなもん使えねえだろ!! 」
出した仕事に対して頭ごなしにここまで言われることなんか、ほかの業界じゃなかなかないだろう。

そこで折れる心を持っていないのが僕だ。
「どこがダメっすか? 」「どういうふうにしたら良くなりますかね? 」
素直に学ぼうとすると、厳しい言葉ながらもきちんと要求を教えてもらえるわけで。

昔絵を描いていたのもどこか活かされたのかもしれない。短期間で腕を伸ばしていった。
2年目からは有料にし、「スタジオMe-CeLL」という名前でフォトスタジオを立ち上げた。

何人か人を雇ってみたものの、昔から身内に厳しい僕だ。
「お金を受け取るのに、なんでこんな仕事なんだ? 」
「目的がこれで手段がこれってわかってんのに、なんでやらないんだ? 」
ストレートに伝えると相手の心が折れるらしい。それが面倒で自分でやってしまうと、その子の仕事がなくなる。
あれこれフォローするのが嫌で、人を雇うこと自体をやめることにした。

“できないくせにできる方法を考えない、やろうともしない”人のことが理解できなくて、
強くものを言ったり、何も言わないという形で見限ったりしてきたけど。
それじゃうまくいかない場合があるということにもだんだん気づいてきた。

社内のスタッフについては、替えるとか、雇わないとか、選択肢がある。
でも、クライアントから派遣されてきた女の子はそうはいかない。
彼女らの実力が足りなかったりやる気がなかったりしても、僕が代わりに被写体になるわけにはいかないんだ。

「僕はプロ。あなたもプロ。お金を受け取るんだから」というつもりで女の子に接すると、あとでクライアントに叱られる。
「酒井くんのとこには行きたくないって言われると、頼みたくても頼めないよ」
結果的にクライアントに不利益になる事を僕がしてしまうのは、プロとして間違っているのかもしれない。

「君が相手を責めてるつもりじゃなくても、相手がそう受け取ってる以上、そう伝わってるって受け止めなきゃ。
 どんなにイイ写真を撮ってもそれだけじゃダメ。
 女の子に「二度と行かない」って言わせちゃうようじゃ、君が自分の首を絞めることになるぞ」

めちゃくちゃ反省した。正しいだけ、速くて良い仕事をするだけじゃ、プロとして十分とは言えないんだ。

自分のなかの正しさや怒りを一旦脇に置いて、相手がやる気や実力を発揮できるような働き掛けをする。
もともと女性と話すことは得意だったんだ。相手を気持ち好くさせる接し方は心得ている。
過去に身につけてきた技術を総動員して、被写体になる女の子との接し方を試行錯誤していった。

その過程で、自分ひとりで仕事をしているわけじゃないということも理解していった。
努力すれば人の何倍も速く良い仕事ができるから、まるで自分ひとりで仕事しているような気になっていたけど。
たくさんの人に支えられてきて、いまの僕がいるんだ。それに気づかずに……なんて傲慢だったんだろう。

バンドの時、ホストの時、アンダーグラウンドな時代……本当に最近まで、人を人として見ていなかったのかもしれない。
だからたくさんの人が離れていって……でも、宮古島では漁師さんたちがメシをくれた。
15歳の僕には「おばあちゃんに詐欺まがいの商品なんか売れない」という正義感みたいなものもあった。
人のあったかさ、自分自身の優しさを、きっと本当は僕も知っていたんだ。
ただ、それを信じて生きることができなかっただけで……。

傲慢な自分に気づき、改めると、仕事が広がっていった。
人との繋がりのなかで機会を頂き、「月刊カメラマン 」、「週刊SPA! 」などの一般紙に掲載されることが増えた。
ひとつの目標でもあったんだけど、書籍の表紙にも採用されるように。
バンド時代に憧れていた、多くの人の見てくれる場所での活動。やっと何者かになれた気がした。

人に言えない仕事もしてきて紆余曲折、40を過ぎてカメラマンになった僕。
いまは、人のあったかさを感じながら、人を喜ばせることで対価を頂く毎日だ。感謝しながら、されながら。
歳を重ねて丸くなった……と言うのかもしれない。

カメラマン以外の、若い子向けの活動もしている。
被写体の女の子をはじめとした若い子たちの、もちろん全員じゃないけど一定数が、
夢や目標を持たず自分の力も信じずに生きているのをもどかしく思ったのが始まりだ。

誰も彼もが、僕みたいに、短期間努力したら何でもできるわけじゃないけど。
それでも、やる前から自分で自分を諦めたり、可能性を見ることすらしないで漫然と生活したりするのは、もったいない。
僕の半生は間違いだらけだったけれど、そのなかでも僕は自分の力を諦めずに生きてきた。
40歳から新たなキャリアを拓くことだってできるんだ。あなたがあなたを、どうか諦めないでほしい。

波瀾万丈な僕のKeyPageが、あなたの心に火を点けることになればいいな。

掲載日:2018年09月28日(金)

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フォトスタジオMe-Cell【ミセル】代表/扇情カメラマン

酒井よし彦(さかい よしひこ)

グラビア撮影専門のカメラマン、酒井よし彦さんは、若者向けに人生を考える機会を提供するなど幅広く活動しています。波瀾万丈なその人生に一貫しているのは、“できる方法を考える”という姿勢でした。

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