酒井よし彦 Episode3:恩人のために成果を出して……。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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偶然知り合った人の出版社に入社した。その会社の出している風俗誌を昔僕も読んでいた、というのがきっかけだ。
33歳、学歴なし、職歴も言えたもんじゃない、そんな僕を雇ってくれた社長は、性善説に手足の生えたような人。
「僕が困ってると、みんなが助けてくれるんだよ。有難いね」
僕の常識とはずいぶん違った前提で生きている人だけど、恩人に貢献したくて僕もがんばった。

風俗誌を出す出版社のクライアント。
いわゆる、怖い人の多い業界だけど、もともとアンダーグラウンドなところにいた僕には特に抵抗感もなくて。
用があってもなくてもクライアントのところを回っていると、「威勢のいい兄ちゃんだな」と好感を持ってもらえる。
すぐに仕事がもらえるようになった。

「バナーの仕事もらったんスけど、いつ出来ます? 」
「いま立て込んでるから、3日後くらいですね」
初めは社内のデザイナーのそんな言葉を信じていたけど、勉強して自分でいじってみるとバナー広告なんかすぐに作れるようになって。

「××さん仕事遅かったんで、僕代わりに作っときました」と社長に報告。
どう考えても、時間の掛かる人より即日納品する僕のほうがいい。クライアントも社長も喜んでくれる。
半年もすると、僕の上に当たる人は社長、専務、専門職のトップ、編集のひとりだけになった。

任される仕事の幅は増え、裁量も大きくなった。社長やクライアントに貢献できるように、できる事を何でも考え、やった。
業績もどんどん上がっていく。
「酒井くんが入ってくれたのも、会社がうまくいってない時だった。本当に良かった」
社長のそんな言葉がうれしかった。

それでも、人とぶつかることが多い。
正しい事、効率のイイ事をすべきだろう、と正論でモノを言い行動をすると、敵を作るみたいだ。
僕は、売り上げを伸ばすことが社長への恩返しだと思って、そのために一番効率的な行動を取るだけなんだけど。

社長の周りの“謎の人脈”の人たちに目の敵にされ、僕のチームのスタッフがひとりずつ潰されていった。
外堀を埋められて僕ひとり残された挙げ句、左遷のような形で異動を告げられた。
「辞めろ、って意味だと捉えてもらって構わないですよ」

社長に聞いてみた。僕はこの会社にとって邪魔になっているか、と。
「全然邪魔じゃないけど、問題もあるからね……」

社長のためになるならと思ってやってきたけど、僕がいなくなって社長がやりやすくなるのなら。
33歳の何も持っていない男を拾って、表の社会で生かしてくれた恩人のために、いくらかの事はできたと思うから。

こうして僕はその会社を離れた。37歳だった。

掲載日:2018年09月28日(金)

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フォトスタジオMe-Cell【ミセル】代表/扇情カメラマン

酒井よし彦(さかい よしひこ)

グラビア撮影専門のカメラマン、酒井よし彦さんは、若者向けに人生を考える機会を提供するなど幅広く活動しています。波瀾万丈なその人生に一貫しているのは、“できる方法を考える”という姿勢でした。

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