大里千尋 Episode3:3.11後に向かった東北。無力感から立ち直ったキッカケは人の温かさだった。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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ずっと、自信がなかった。
「自分にできることは何もない。だからしなくたっていい。」と思ってきた私は、少しずつ変わっていった。

大学卒業後、世界一周の時に知り合った人の会社に勤め始めて1年後に、東日本大震災が起きた。
会社の同僚が、家庭もある中仕事を辞めて石巻に行くと言い出した。
私も一緒に行こうと決めて4月から東北に入り、食事のデリバリーや、支援物資を運ぶボランティアを始めた。

やりがいももちろんあったけれど、つらいこともたくさんあった。
元々自分の考えを外に出せなくて人にうまく頼れない。苦しくても誰にも相談せず自分の中だけで解決してしまうことが多かった。
被災された方々と接する中では、津波など特定の話題を出さないようにしたりと常に気を張っていたし、仲間同士で意見があわずささいなことでぶつかったりした。

人とわかりあうって、なんてしんどいんだろう。
「私は一体何をしに来たんだろう」と無力感が募る日々が続いていた。

そんなある日、デリバリーの場所を貸してくださっていた土地のオーナーの奥様が、「いつもありがとう」と美しいブローチをくださった。
スワロフスキーの、きらきらした鳥の形のブローチ。
家もなにもかも流されてしまった中で残った、数少ない品。泥も綺麗に洗ってくださったのだろう。

そんな大切なものを私に……たくさんたくさん泣いた。
何かをしてあげたいと思っていたけど、逆に優しさと元気をもらっていた。
逆の立場だったら、はたして同じことができるんだろうか……。
それでも、自分を認めてもらえたような気がして、思いつめていた心がふっと軽くなって、気持ちに余裕が持てるようになった。

私にだって、何かできることがあるんだ。

その日から、「何もできないからしない」ではなく、「できることを考えよう」と思うようになった。

掲載日:2017年09月15日(金)

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公益財団法人現代人形劇センター内組織
デフ・パペットシアター・ひとみ 企画、制作

大里千尋(おおさと ちひろ)

心を開くことを恐れていた私が、3.11をキッカケに夢を見つけた。 世界一周をしたり、仕事をやめて被災地でボランティアをしたり。人の優しさ、人とぶつかる苦しさの中で知ったこととは……。

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