中島庸彰 Episode2:夢目前で道を絶たれて。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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そこは、TVや雑誌で見るような芸能人が毎日来るようなサロンだった。技術はもちろん接客でも何でも、一流の環境だ。
ここで一生懸命経験を積めば、きっと……!!!

7時から26時まで働くめちゃくちゃ厳しい店だけど、目標に向かって着実に積む努力は心地好い。
週1の休みの前日には練習モデルを捕まえて、休日は練習、練習、練習。
つらい事ももちろんあったけれど、業界の最先端で学んでいる楽しさややり甲斐があった。
店長や先輩たちも、厳しい分しっかりかわいがって、育ててくれた。

1年半も勤めたある日。
「なんか痛いな。何だろう? 」
腰に痛みを感じた。休みもあってないような業界だし、疲れが溜まっているのだろうと思った。

痛みをごまかしながら働いて、数日後。
「起き上がれない……!? 」
急きょ休みを取り、その日のうちに整体に行った。診てもらってすぐにサロンに戻っても、数日後にまた。
1ヶ月の休みをもらってリハビリをして復帰、1週間後にまた立てなくなる……。

腰を痛めても美容師を続けている人を知っていたので、なんとかできないかと試行錯誤したけれど。
バックオフィスだけ手伝いながらろくにカットもできず、いっぽうで同期が腕を上げていくのを見るのはつらかった。
この忙しい店でこんな働き方をさせてもらって、迷惑を掛けている自覚もある。

「店長。話があるんですけど」
店長は、10回くらい無視した。察しているのだとわかった。
「……店長!!! 」

いつでも戻って来いと言ってくれる店長に頭を下げ、僕はサロンをあとにした。
数歩歩いたところで空を見上げ、目をかっ開く。こらえていた涙が頬を伝った。

中途半端だった僕が初めて持った目標。何者かになれるかもしれないと希望を抱いた、美容師という仕事。
ビリっけつから学年最優秀まで腕を上げた成功体験。厳しくても、目標に近づいている実感の持てたサロンでの日々。
その何もかもが、過去になったんだ。これから、いったいどうやって……。

22歳の12月だった。表参道の風は、頬に冷たかった。

掲載日:2018年06月22日(金)

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socia'L CORE代表取締役社長等

中島庸彰(なかじま のぶあき)

特技も何もない、普通の少年だった中島庸彰さん。初めてつかんだ目標に向かい邁進する日々は、ある日突然絶たれたのでした。絶望に打ちのめされても決して人生を諦めなかった中島さんの奮闘記です。

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