三島桂太 Episode1:何か願っても叶わないから。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

» 三島桂太 Episode1:何か願っても叶わないから。

「お母さん!! 」
荷物をまとめて出て行く母さんに、僕は泣きべそで土下座した。
「お願いだから! 一生のお願いだから! 出て行かないで!!! 」

振り返った母さんの浮かべる薄笑い。冷たく突き放すようにも見えたし、悲しそうでもあった。
僕の目線に合わせてかがんで、肩に手を乗せ、母さんは言った。

「桂太。一生のお願いっていうのは、こんなとこで使うもんじゃないわ」

母さんは何度家を出て行ったんだろう。
埼玉の家にいたころもそうだったし、父さん方の祖父ちゃん祖母ちゃんと暮らすようになってからも。
今回は、けっきょく1年近く戻って来なかった。

物ごころついたころから、父さんと母さんの仲はすごかった。
お酒を飲むと暴力を振るう父さん、出て行く母さん。
兄ちゃんの誕生日に父さんがすき焼きをひっくり返したこともある。味が気に入らなかったんだ。

父さんは昔俳優をやっていたんだって。豪快な、昭和の俳優だ。
テレビを見ていると、有名な女優さんを指さして「こいつ、抱いたぞ」なんて言う。
「だいた」ってどういう意味なのかわかんないんだけど。なんかすごいコトだってのはわかるよ。

僕にとって父さんは、恐怖の対象でもあり、かわいがってくれる大好きな人でもある。
「桂太はかわいい。お前は俺の子だ。俺のようになれ」
機嫌のイイ時、父さんはそう言う。
そして、あんまり父さんに似ていない兄ちゃんに向かってこう言い放つんだ。
「お前は、段ボールから拾ってきたんだ」

僕は父さんに愛されている。殴られることもあるけど、兄ちゃんと違って愛されている。
兄ちゃんより僕のほうが上なんだ。

父さんの目を気にしてオドオドしている兄ちゃんと対照的に、僕は狂犬みたいに育った。
保育園では毎日物置に閉じ込められて過ごした。暴れたり噛みついたりするからだ。

じきに両親は離婚。
父さんは僕らを行かせまいと家に閉じ込めて、僕は2階の窓から飛び降りて。
母さんに連れられて僕らは広島に引っ越した。

生活のために、母さんは昼も夜も働くように。
傍にいてほしい子ども心と、僕らに不自由させたくない親心のすれ違い。

「あいつは悪魔だわ。桂太、あんたは悪魔の血が濃いから、気をつけなさい」
父さんを否定する母さんの言葉。
母さん大変だったもんな、そうなのかな、と思うようになるのと同時に、やりきれない気持ちも。
自分の半分が、自分の母親に否定されているってコトだもん。

「あんたはだいじょうぶそうだから。私はお兄ちゃんが心配だから、お兄ちゃんだけを見るわね」
ある時、母さんにそう言われた。

「桂太は俺の子だ。お前は俺のようになれ」
父さんの言葉を思い出す。怖かったけど、父さんの傍にいたかった気持ちも本当なんだ。
でも、父さんは悪魔……。

父さんの傍にいられなくなって、母さんにも突き放された僕。
そもそも土下座をした4歳の時、何かを願ったって叶わないんだなって思い知って。
誰かを信じるなんて、そんなコト……。

荒んで荒んで、強くもないのに中学生に絡んでは、ボコボコにされる。
クラスには馴染めないから、小中と陸上部で頑張った。
練習していると、サッカーボールが飛んでくる。動く的なんだよな。

それでも部活は楽しかったし、楽しくない昼間の時間は三国志の小説を読んで過ごした。
総じて、楽しいとはとても言えない日々だけど、そんななかでもなんとか楽しみを作り出そうとしたんだ。

このままここにいてもどうにもならない。
スポーツ推薦でよその地域の高校に進学して、バイトしながら寮生活を始めた。

ただのスポーツ推薦じゃない。陸上で日本一の高校だ。ケニア人とかいるし。
「地元にいたくないから」ってこの高校、部活を選んだ僕。ほかの部員たちとの温度差がハンパなくて。

推薦じゃないみんなは地元から進学して、僕だけよそから来たわけだから、友達もいない。
眼鏡をコンタクトに変えたこともあって、最初の1週間だけはモテた。
「あの無口なイケメン、誰? 」よそのクラスの女子が休み時間に覗きに来るんだ。
でも、口を開くとみんな離れて行く。

親も誰も信じられない、自分のことも大嫌い。
人間性ってのは、二言三言交わせば伝わるもんだよね。

中学のころはクラスから逃げるために陸上をしていたけど、高校では陸上部でもハブられて。
高2の冬、無理くり退部した。
推薦で入った奴が、怪我でも不祥事でもなく「やりたくないから」って理由でやめるなんて、うちの部では初めてで。
その後もクラス内の陸上部員に嫌がらせされた。ま、彼ら以外にも好かれちゃいないんだけど。

逃げグセと表裏一体でもあるけど、「ここしか居場所がない」っていう考え方は昔からしなかったから。
クラスがつまんないならほかのクラスに友達を作ろう。学内でモテないなら他校に彼女を作ろう。
そんなふうに過ごしてはいた。

その日、僕はバイト先のファミレスでハンバーグを焼いていた。

こめかみがピクっとした。
「何だろう? 」
頭痛っぽい。頭痛のない人生なんかないわけないから、気にせずに仕事を続けていたんだけど。

その痛みがとんでもなく大きくなる。バットで殴られるような激痛。
立っていられなくなった。かがみ込んで、倒れて、呻いて、叫んで……。

意識が遠くもなれば、かえって楽かもしれないのに。
脈とおんなじペースで襲ってくる頭痛は、叫んでも叫んでも、紛れない。収まらない。遠のきもしない。

何なんだ、これは。僕の体、僕の人生、どうなっちゃったんだ。
それでなくても希望なんかなかった人生。こんな、ワケわかんない肉体の痛みまで抱えて、僕は……。

掲載日:2018年11月15日(木)

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根本改善美容士、株式会社 HPP 代表取締役社長

三島桂太(みしま けいた)

自身のクリニックで“ゴールの伝えられる施術”をおこなう三島桂太さん。“エキセントリック”という言葉では表せないほど波瀾万丈な生い立ちの三島さんが、自身の怒りに気づき、生き方を覆したキッカケとは......?

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