「お父さんは、もう帰って来ないから」
お母さんのその言葉を、私はあっさり受け入れた。
もともとお父さんはあまり家にいなかった。
たんしんふにん、とかいうらしい。家にお父さんがいないことをたんしんふにんって言うのかな。
9歳。小学校は楽しい。
私は絵を描くのが好きで、漫画を描いてお友達に見せると「すごい」ってほめられたり喜ばれたりする。
漫画家になりたい、って思うようになった。
もともとお父さんのいなかった生活。そんなに大きく変わったわけじゃない。
たまに帰って来てかわいがってくれるお父さんがまったく帰って来ないとなると、
ちょっとさみしいなとは思ったけれど。生活に大きく関わるコトじゃなかった。
どこかでお父さんは離れても自分を愛してくれているんだという自信があったのだ。
もともとお母さんは私や弟を厳しく育ててきた。
お父さんが帰って来ないって言われたころから、お母さんはなんだか忙しくなったみたいで、
お母さんにほめられるということ自体もともと少なかったけれど、それ以降ほとんどなくなった。
勉強も得意じゃない、運動もできない、だから私はほめられないんだ。仕方ない。
特別な何かがなければ、ほめられないし構ってもらえないのも仕方ないよ。
絵が好きで、好きな漫画を描いてお友達に「すごい」って言われるのがうれしかった。
夏海ちゃんはここにいていい、漫画が描けるからここにいていい、って言われているみたいだった。
それから何事もなく大きく成長した私に、
お父さんとお母さんが離婚したという事実を改めて認識する事が起きた。
成長してはじめて“離婚”の意味を知った私。ショッキングだった。
大好きだったお父さんの記憶がその瞬間曇った。
大嫌いになった。ゆるせなかった。
私は、お父さんに捨てられたのだ。
私は、お父さんに愛されていなかったのだ。
お父さんに愛されていなかった私の存在価値って、いったい何なのだろう。
掲載日:2018年12月03日(月)
このエピソードがいいと思ったら...
琴羽夏海のエピソード一覧
ポジティブ・リーダー占い師
琴羽夏海(ことは なつみ)
自信を持つための占い、いまここから幸せに生きる占い。そんな占いを提供する琴羽夏海さんは昔、自信が持てず何事も長続きしないことを苦にしていたのでした。琴羽さんが現在のような活動を始めたきっかけとは?