鍵麻由 Episode2:信じていれば、できない事は…… | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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人生は自分で切り拓く。自分の心に嘘はつかない。

長く付き合ってきた恋人がいるのに、会社の同期の事が好きになった時は、付き合える見込みがなくても恋人と別れた。
その同期と付き合って数年、結婚の話も出る頃には、「結婚する前に留学したい! 」とオーストラリアに飛び出した。

もちろん、その都度相手ときちんと話し合い、お互いに納得したうえで。
誰かに合わせたり遠慮したりして、自分の人生を心に沿わない方向に進める事は、したくない。
人生に責任を持って生きてゆく。
落ち込んだり悩んだりする事もあるけれど、自分で舵取りしてゆく人生は楽しくて、希望に満ちていて。
困難はあっても、できない事なんてない。自分を信じて笑顔で挑戦すれば、何だってできる。

1999年2月14日。バレンタインデーに私からの逆プロポーズ。27歳でその彼と結婚した。
数年後、富士山の見えるマンションも買った。
何度か転職をして、ひょんな事からパソコンスクールの経営もした。
特に打ち出しているわけでもないのに、私の関心が引き寄せるのか、スクールには韓国、中国、ロシア、スリランカなど外国人の生徒さんも多くて。
日本中、世界中にご縁が広がってゆく。


できない事なんてない。自分を信じて笑顔で挑戦すれば、何だって……。

同世代の友人たちから毎年届く年賀状。
「新しい家族が増えました! 」
かわいらしい赤ちゃんの写真や、親子揃った写真が目に刺さる。

「○○ちゃんにも赤ちゃんが産まれたんだって。どうして……私たちのところには、来ないんだろうね」

結婚後何年経っても赤ちゃんを授からないので、検査してもらった事もある。
特に問題はないらしい。「これが原因です」と言われたほうが楽なのに。

「問題はないっていうから、焦る事ないよ。そのうちやって来るよ」
「そうだね……」

毎月の生理が辛い。今月もダメだった、の烙印。
決して楽ではない不妊治療を続ける生活。

街でベビーカーを見ると、心が掻き乱される。
もちろんかわいいと思う。思うけれど。

「うらやましい……」

うらやましい、という気持ちにとどまらない。自分を責めてしまう。
自分が女性として一人前でないような、欠陥品であるかのような……。

なかには悪意なくそう言う人もいる。「やっぱり子どもを産んで育てる事こそ、女性の幸せ」

傷つく一方で、他ならぬ私自身が「子どもの産めない私は、女として……」と思っているから何も言い返せない。

「どんなに欲しくたって、全員が授かるわけじゃないのに」という気持ちと、
「今はそういうふうに言われたって、いつかは……」いつかは普通に子どもを産むんだ、そうしたら何も言われまい、という気持ちと。

34歳のある日。生理が来ない事に気づいた。
はやる気持ちを抑え、規定の日数待って、妊娠検査薬を使うと……結果は陽性!!
「やった! やったよ!! とうとう来てくれたんだ!!! 」
手を取り合って夫と大喜び。やっと、やっと……私たちの赤ちゃんが!!!

翌日の夜は、お世話になった職場の先輩の送別会。満たされた気持ちで出席し、帰途についた。
「今、駅だよ。これから帰るからね」
夫にメールして、自転車に乗った。
家までもうすぐというところの横断歩道で信号待ちをしていると、原付バイクの音が近づいてきた。
高校生かな。3人組の若い男の子たち。

信号が変わったので、横断歩道を渡った。
遠ざかるはずのバイクの音が、気づくと……

(……え、何、何なの?? )


囲まれた。動けない。恐怖がせり上がり、頭が真っ白になる。

(体には……お腹には、触れないで……!!! )

体には触れられなかった。自転車のカゴに入っていたバッグだけが盗まれた。

震えが止まらない。涙が止まらない。

一瞬の事だった。
けれど、いったいどれだけそこに立ち尽くしていたのかわからない。


どうやって家まで辿り着いたのか。
メールがあってから何十分も帰らない私を心配して、夫が玄関で待っていた。
ショックで声が出ない。それでもなんとか起こった事を伝え、警察に被害届けを出して。


翌日、産婦人科に駆け込んだ。
「大丈夫。心臓の音、聞こえますよ。悪い人に負けない強い赤ちゃんでよかったですね」

それでも、その後何度も“その記憶”がよぎった。
バイクに囲まれる音が聞こえた気がして、夜中に何度も目を覚ました。

2週間後の検診。

心臓の音は、聞こえなかった。

「15週での流産は、卵側の原因だから……。たとえその事件がなくても、流れていたと思いますよ……」

お医者様や家族に、いくら慰められてもダメだった。


「ずっとずっと欲しかった赤ちゃんが……」
「やっと、来てくれたのに。15週間は確かにここにいてくれたのに」
「あの時、あの道を通らなかったら……」

自分を責める気持ちが止まらない。後悔してもしきれない。どうして、どうして、どうして……。

できない事なんてないと思っていた。
自分を信じて、笑顔でいれば、何だって乗り切れると思っていた。

そんな事は、なかったんだ。

掲載日:2019年03月10日(日)

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2度の乳がんを乗り越えた笑顔の講演家

鍵麻由(かぎ まゆ)

無条件の愛を注がれて育った鍵麻由さんは、ひまわりのような笑顔の持ち主。どんな環境でもその笑顔で乗り切ってきたのですが、ある時立ちはだかったのは……。絶望の淵からの再出発、現在までを、振り返りました。

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