五島希里 Episode1:自分を駆り立てる問いとの出合い。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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「あなたは何になりたいの? 」
ずっとそう聞かれて育った。

家族も、親戚も、ほとんどが自分で仕事を創り出している。幼稚園や小学校に通っていても、いろんな仕事の人が目に入ってくる。
「あたしは何になりたいんだろう? 何になるんだろう? 」
その問いがいつも自分のなかにあった。

いつかは何者かになる。だけど、いまは“何者か”ではない。……あたしは何者になるんだろう。

物ごころついたころから子どもが大好きで、幼稚園では自分より小さい子たちのお世話をしていた。
8つ離れた妹の生まれた時は……もう、もう、うれしかった!!!

子どものほかに好きなのは、本を読むこと。両親に買ってもらった世界の偉人伝を夢中で読んだ。
いろんな時代のいろんな国に生まれた人が、困難を乗り越えて、すばらしい“何か”を成し遂げる。感動して、ボロボロになるまで読み返した。
「あたしは、何をするんだろう? 」
「いつかは“何か”をするんだろうな。それは何なんだろう? 」
何を読んでも行き着く問いは同じで、その答えはずっと見つからなくて。未来がずっとぼんやりしていた。
目に入るいろんな仕事に対して、「いいな、ステキだな」とは思っても、自分がそれを極めるというイメージが持てなかった。

ヒトラーとガンジーの伝記を読んだ。2冊を並べて読み、共通点に気づく。
ひとつは、スピーチで人の心を動かすのがうまいこと。もうひとつは、厳しい状況に置かれた経験があること。
同じように困難を経験した時、スピーチで人の心をつかむという特技を持ったふたりは、正反対の道を選んだのだ。
ひとりは、敵を作って連帯する道を。もうひとりは、非暴力を訴え連帯する道を。

ひとりの人が苦しい経験をどう捉えて、どの道を選ぶのか。何がその分かれ目になるのか。
そんな事を考えながら、そして自分のやりたい事を考えながら暮らしていた、9歳のある日。

目に飛び込んできたのは、1歳くらいの女の子の写真だった。たぶん、アフリカかどこかの国の子。
土埃の舞う地面に座り込んだ、ガリガリに骨ばった体。それなのに、お腹だけはギョッとするくらい膨らんで。
こちらを見つめる瞳は大きくて、悲しみとも諦めともつかないモノを浮かべている。

……どうして? どうしてこの子はこんな目に遭っているの?

もしかしたら、この子は何かの天才だったかもしれない。
生まれた国が違えば、ものすごい才能を発揮して、世界中の問題のうちのひとつを解決するほどだったかもしれない。
それなのに、この子はどうして?
努力せずに不幸になるのは本人のせいかもしれないけど、生まれた場所のせいでこんな目に遭うのが自己責任だといえるの?

教育とか、経済支援とかが、大事だという。日本政府は途上国にたくさんの援助をしていると聞いた。
けれども、この子はこんな状態でいる。
写真が撮られたあとに、彼女の容態や国の状態が変わっていたら、もしかしたらこの子はもう生きていないかもしれない。

……どうして? どうして、こんなコトが起こっているの?

彼女のことを忘れてしまうのが怖くて、しばらく、そのページをめくることができなかった。

「希里は何になりたいの? 」と尋ねられて育ったから、自分は何にでもなれると思っていて。
それが何かは見つからなかったけれど、望んで努力すれば何にでもなれると信じて疑わなかった。
それなのに、同じ時代の地球の別の場所には、夢のために努力をするどころか、夢を持つことさえできない子どもがいる。
本人ひとりの努力ではおそらく抜け出せない困難のなかで、夢も才能も考えられない日々を送る子どもがいる。

「どうしたら、生まれた環境を乗り越えて、自分の才能を発揮できる人が育つの? 」
「そのためにあたしには何ができるの? 」

自分が何になりたいのか……それ以外の問いが、9歳のあたしの心に初めて生まれた。
この問いの答えを見つけるための人生が、ここから始まる。

掲載日:2018年08月23日(木)

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港屋株式会社 代表取締役、一般財団法人生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ

五島希里(ごとう きさと)

コーチとして、中高生を対象に“問いを立て、目標に向かう道のりをデザインする力”を育む活動をしている、五島希里さん。五島さんの人生を貫いているのは、9歳の時にある写真を見て抱いた衝撃でした。

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