少し話を戻して。世界大会から帰ってきてしばらくは、優勝をおさめたことに有頂天になっていた。
自分の口笛はなんて上手いのだろう、もうこれ以上上手くなれないのではないか?と思う程に、自己陶酔状態だった。そんな中、プロのミュージシャンや音大生と一緒に演奏してほしいという依頼があり、仕事を受けたのだけれど、僕は全然ついていけなかった。
口笛という狭い世界で優勝して調子に乗っていた僕は、“音楽”というもっと広い意味で捉えた上では、なんてこともない、ちっぽけな存在だったのだ。
全くついていけない自分が、とてつもなく悔しかった。その時心底、口笛を「ただの口笛」という世界観で終わらせたくない、ひとつの立派な音楽として、ピアノやヴァイオリンと同じ土俵、同じ立ち位置、同じ舞台で勝負していけるようなものにしたい、という気持ちがはっきりと輪郭を持った。
「口笛でここまでやれたらすごいよね~」という評価ではなく、「ピアノって良いよね」と同じように「口笛って良いよね」と人が感覚するように、ひとつの“楽器”として聞いてもらえるようになりたい。きっと僕だけではなく、口笛をやっている全ての人が思っているだろう。
今はまだまだでも、本当にそう感じてもらえるようになりたい。
ただ、これを根底に強く持ちつつも、口笛を吹く事を仕事として捉え過ぎたことで苦しくなっていた時期を越えた今は、また少し違う姿勢で口笛に向き合っている。
僕は、あまりにも多くの人にお世話になっている。
変わらずにずっと応援してくれている人が、本当に沢山居る。
その人達に、恩返しができたらと思っている。ただ、別に何かをあげるということではなくて、僕がその人の“夢”なり“誇り”になって、僕と出逢い縁が繋がっていることを、良かったと思ってもらいたい。もちろんその人の為にはなんでもするつもりだ。
きっと、「儀間さんの息子いつもあんなんやってんや…」と、後ろ指さしてくる人も絶対にいるはず。
だから家族も含めて、無償で応援し続けてくれている人たちに、有名になって恩返しをしたい。
ほんとうに、こころから。
これが僕、儀間太久実のKeyPage…
掲載日:2018年11月28日(水)
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口笛奏者
儀間太久実(ぎま たくみ)
口笛に対する気持ちがわからなくなってもがき苦しんでも、自分の中に湧きあがる想いとその光を信じて、自分自身で答えを出してきた儀間太久実さん。強い信念で進み続ける、若き口笛奏者の生き様にみた、プロとしての葛藤と覚悟とは。