江連亮 Episode4:道は自分で拓けるから | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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Sさんとは相変わらずバチバチやっている。とはいえ、2年も勤めると様子が変わってきた。

言葉を交わさなくても、彼とは意思疎通ができるようになっていた。
目と目を合わせただけで、こちらのしてほしい事がわかる。そのとおり、またその期待以上に適切にSさんは動いてくれる。
来店客の多い店内でそういう存在は本当に有難い。

決して仲がいいわけじゃない。好きだとも思わない。だけど、こういう感覚は初めてで、貴重で……。

ある日、Sさんのデリカシーのない発言に、こちらもズバッと言った。
「そんな感じだから、Sさんには人がついてこないし、上にも上がれないんですよ」
仕事はできるのに昇進が早いわけではない。事実とはいえ言いすぎたかな、図星だから怒るかな、とも思ったけど。

「そうだな。お前のほうが人徳あるし……上に上がっていくんだろう」

そんなふうに客観的に自分のことがわかっているなんて。
そして、痛いところを突いた後輩のことも認める発言ができるなんて。


個人的に仲良くしたいとは思わない。気が合う合わないというのはあるものだから。
それでも、こんなに仕事のしやすい人はいないかもしれない。人っておもしろい……!!

それぞれ配属先が変わり、おれも複数の店舗を経験した。
全国トップの売上も取り、数字の厳しい店舗の立て直しに1年限定で向かったこともある。

その忙しいなかでも、決して忘れなかった想い――「27歳までに会社をやる」、この実現にいよいよ舵を切った。
広告関係の事業で、予定より早い25歳で株式会社mixtureを設立。
前の会社でのお客さんと意気投合し、共同経営という形を取った。

専門時代のIと、元上司のSさんも誘った。
Sさんとバチバチやっていたころを知る人たちは「信じられない」と言ったけど。
どんなに厳しい意見でもきちんと言い合える、仕事に関して誰より信の置けるSさんに、おれの希望で入ってもらった。
Sさんは二つ返事。「イエスマンじゃない俺を誘うって、やっぱお前おもしろいな」

サラリーマン時代は、ニューヨークをはじめとした外国を旅行することが多かったけど。
起業してからは出張で日本国内を飛び回るようになり、地方の魅力を知った。

都会と地方の情報格差、本人たちも気づいていない地方のスモールビジネスの魅力。
その可能性に働き掛けてゆく。

売上は順調に伸びていった。
ただ、共同経営者との経営方針が合わなくなり、数年後会社は手放すことに。


最初の起業時より自分の理念が明確になっていたので、今度はひとりで株式会社Fibonacciを始めた。
事務所は、渋谷のマンションの一室。もっと家賃の安い土地もあるわけだけど、渋谷という土地は譲れなかった。
それは、土地の力を思い知ったニューヨークに日本で一番近いエネルギーを持つ街だと確信したからだ。

翌月には、前の会社に誘ったSさんたちもFibonacciに迎えた。
どんなにボロくても小さくても。この場所から、仲間と、おれの理念を実現してゆくんだ。
日本中のスモールビジネスに光を当てるという理念を。

翌年には思いがけずオフィスを移ることになった。
あの、携帯電話を落とした男性の紹介してくれた、3つ年上の男性。
彼の会社の引っ越しに際して、オフィスをシェアしないかと持ち掛けてくれたんだ。

語り尽くせない縁が重なって、現在の自分がいる。
過去のおれみたいな人に希望を与えられる存在……には、まだ至らないかと思うけど。
そこに向かって、確かに歩みを進めている。

理想に近づくための今日という一日を終えるたび、自信が増す。
専門時代のあの日々のように……。
「どんな家庭環境でも、学歴がなくても、夢は持てるし道は拓けるんだ」
そう伝えられる自分に、少しずつ近づいている実感。

お父さんのことは……いまも、嫌いだ。だけど、昔と違った気持ちもある。

それは、お父さんに感謝しているということ。

あの父でなければ、こういう生き方をしているおれはいなかった。
いまの自分が好きだから。いまの人生が楽しいから。
乗り越えてきたすべてが必要だったと思う、だからこそ、お父さんが自分の父でよかったとも思う。

夢も目標も大きく果てしないけど、いまここまで到達できたことも誇らしく思っている。
現時点までのところを公にすることで希望を持ってくれる人もいるかと思い、今回こうして語ることにした。

あなたがいまどんな状況なのか、わからないけど。
変えられないもの、理不尽な環境に苦しんでいるかもしれないけど。
死線をくぐり抜けてきたおれには言える。人生に乗り越えられない壁はない。
そして、乗り越えた先から振り返った時……かつてあなたを苦しめた理不尽なものさえ感謝の対象になっているんだ。

ひとつの成功事例として、あなたの希望になれたら嬉しい。
これが、おれの伝えたいKeyPageです。

掲載日:2019年04月05日(金)

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株式会社Fibonacci 代表取締役

江連亮(えづれ りょう)

株式会社Fibonacciを経営する江連亮さん。家庭内暴力という生きるか死ぬかの日々をくぐり抜け通った専門学校で、「こんな自分だからこそ誰かの希望になれるかもしれない」という希望を見つけ……その半生を追いました。

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