江連亮 Episode1:反面教師のお父さん | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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お父さんはどうしてこうなっちゃったんだろう。

サッカーを教えてくれたお父さん。マイペースで明るいお母さん。
姉ちゃんがひとりいて、おじいちゃんの建ててくれた横浜の一軒家にみんなで住んでいる。

普段は穏やかなお父さんが、酒を飲むと愚痴を言ったり家族に当たったりするようになった。
子どものおれにはよくわからないけど……“仕事”というのがうまくいかないらしい。
人間関係が難しいとか、すぐに会社を辞めてしまうとか。


「こんな事言われたんだ。あいつは俺のことこう思ってるに決まってる」
子ども心にも、それはお父さんの考えすぎじゃないか、と感じることが多い。そう言うと、
「お前にはわかんないだろう」

確かに、わからない。おれは大人じゃないし、会社でその人と話したわけでもない。

でも、そう言われてしまうと、何も言えなくなってしまう。
お父さんの気持ちを和らげたくて言った言葉、というか気持ちが、行き場を失って宙に浮く。重い沈黙。
家族で囲む食卓、まずい飯。もちろん、ご飯そのもののまずさじゃなくて……とにかく雰囲気が苦痛で。

もともと、サッカーが大好きだったお父さん。おじいちゃんの反対でサッカーを続ける道を絶たれたという。
学歴がなくて苦労しながら身を立ててきたおじいちゃんなりの愛情だったんだろうけど……。

「サッカーを続けたかった。あの時続けていたら、俺は……」
本当にやりたい事をしなかった。その後悔と、それを強いられたという気持ちが、仕事の続かない原因みたいだ。

借金がかさみ、生活はどんどん苦しくなる。
愚痴や暴言はエスカレートしていった。お父さんはお母さんに暴力を振るうようになった。

「お父さんみたいにはなりたくない」
お父さんの歩んできた道を歩まないように。物事を選ぶ時、お父さんならどうするかを考え、その反対に進む。
いつからか身につけた癖だ。

サッカー部の強い川崎市の高校に進学した。地元ではないので電車とバスを乗り継いで。
サッカー選手になりたいと思っていたものの、サッカー部の仲間との交流で気持ちが変わった。

「おれも好きだけど……おれ以上にサッカーの好きな人たちには、敵わないな」

好きであればあるほど、情熱があればあるほど、練習にかける時間も長ければ質も高い。
おれの熱量では太刀打ちできないと思い、サッカー選手という夢は自然と消えていった。


「サッカーのほかに打ち込めるものは……」
ほかに興味を持っていたのはファッションだ。
友人のお兄さんがカッコよくて、中学のころから人のファッションを観察したり自分で工夫したりするようになっていた。

お父さんみたいにならないためには、自分の好きな事ややりたい事を選ばなくちゃ。
人に反対されたからとか、家庭事情がこうだからとか、それを言い訳に就職とか違う道を選んだら……絶対に後悔する。

親戚の反対もあったものの、新宿にある服飾の専門学校への進学を決意。
ただ、入学金と1年の前期の授業料だけで100万ぐらい掛かる。もちろん我が家にそんなお金はなくて。

担任の勧めで、国の教育ローンに応募した。
「あなたの夢を応援します! 」ポスターに書かれたその言葉に希望を見たんだけど……。


入試に合格し、最初の手続き金を支払ったあとのこと。
「江連、審査に通らなかったらしいぞ」
と、担任に言われた。

「なんでですか!? 」
両親の職業や収入が原因ではじかれたらしい。母親のパート収入だけでは借りられないという。

「全然、夢応援してくれないじゃないか! 」
おれみたいな状況の若者でも夢をめざすためのローンじゃなかったのか……?

でも、社会ってそういうものなのかもしれない。ローンだって、慈善事業じゃない。
選んだ覚えもない家庭環境でどんなに苦しんでいたって、誰かが助けてくれるわけじゃないんだ。
これまでだってそうだったから、わかっていたつもりだけど。改めてそう思い知った。

だったら自分でやろう。1年バイトして稼いで、来年こそそこに進学しよう。


どんな理不尽も困難も、おれの生きたい道を諦める言い訳にはさせない。
道は、自分で切り拓くんだ。

掲載日:2019年04月04日(木)

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株式会社Fibonacci 代表取締役

江連亮(えづれ りょう)

株式会社Fibonacciを経営する江連亮さん。家庭内暴力という生きるか死ぬかの日々をくぐり抜け通った専門学校で、「こんな自分だからこそ誰かの希望になれるかもしれない」という希望を見つけ……その半生を追いました。

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