私に「何かを変える」ことができるなんて、1ミリも考えたことがなかった。
あれは中学3年生の頃。家庭の都合で1年間上海で暮らした時の出来事だ。
タクシーに乗った私に中国人の運転手は突然こう言い放った。
「お前たち日本人は、中国に何をしたかわかってるのか」。
神奈川県で生まれ育った5人兄弟の4番目。ずっと人に恵まれてきたと思う。
「私には何もできないからしない」という気持ちが強いタイプだった。がむしゃらに努力してきたこともなかったし、世界や歴史などというものにもあまり興味を抱いてこなかった。
そんな私の心に、突然の彼の一言は深く突き刺さった。
当時の自分には、どうしてそんなことを言われるのか、その理由すらわからなかった。
悔しさというよりも、それまで自分がいかに何も知らなかったかということに驚いてしまった。
そしてその時初めて、何も悪いことをしていなくても日本人であるだけで憎しみを向けられることがあると知った。
私は、世界で起きたこと、起こっていることを、もっと知らなければいけない。
そう強く感じた。
これが、人生の方向を決める最初のきっかけとなった。
掲載日:2017年09月15日(金)
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