池田レゴ Episode2:演劇漬けの学生生活、演劇に命を捧ぐことを決めた観客からの一言… | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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舞台の経験によって人前で話す事に慣れたのだろう。
一種のショック療法だ。吃音や赤面することがなくなった。人とコミュニケーションが取れるようになり友達ができた。中学校ではクラス委員に選ばれるくらい人前で話せるようになり、慕ってくれる後輩もできた。いじめ漬けの日々が嘘のようだった。

高校では演劇部の部長をしながら演劇漬けの毎日を過ごしていた。
順調だった。将来の夢は役者になると決めていた。高校野球における甲子園のようなものが高校演劇にもあり、夏に行われる高校演劇大会だ。高校二年生の夏に、僕の学校は僕が書いたオリジナルの台本で挑戦した。結果は惨敗だった。

「詰め込み過ぎです。何を言いたいのかわからない」

審査員の代表者(プロの演出家)は、僕にそう告げた。
僕の脚本と演出はまるで伝わらなかった。若かった。プライドの塊だった。演劇が僕のプライドの全てだった。その人間が演劇を否定されてしまっては何もできない。惨敗して更に僕は演劇にのめり込むことになる。

高校三年生の夏。
受験を完全に無視して脚本、演出、演技術を一から学び直した。今の自分の力を全て原稿用紙にぶつけた物語のタイトルは『誰もいない森で倒れた大木に音はあるのか?』

本番当日、観客の反応は想像を遥かに超えていた。波のように押し寄せる笑い声、泣けるシーンでは嗚咽が聞こえる、そして鳴り止まない拍手・・・審査員の代表者が行う寸評でも非常に好感触だった。

「やった!一番ウケた!僕の作品が一番お客様に楽しんでもらえた!」

しかし・・・大会は落選に終わる。
さすがに納得がいかなかった。「観客にも一番ウケた、そしてあなたもあんなに褒めてくれたじゃないか!」僕は審査員の代表者に詰め寄った。彼が教えてくれた落選理由は、顧問審査員の反対が多すぎたというものだった。

この台本のテーマは「幸せとは何だろう」と僕なりに考えたものだった。
お金も幸せ、愛する人と一緒にいるのも幸せ。死ぬこと・・・それも幸せの一つかもしれないといった自殺志願者の物語を僕は書いた。「生きる為に笑顔で前を向く」というエンディングで終わったのだけど、高校教育的には、「“自殺志願者”が“死を幸せとして望む”」なんて内容は到底受け入れがたい。審査員の代表は演劇で食べているプロの演劇人だけれど、他の審査員は演劇部の顧問だ。審査員といっても教員。教育的な面を考えてのこの結果は理解せざるを得なかった。

悔しかった。どうしてそこまで気が回らなかったのか・・・と。
観客だけではなく、審査員も楽しませるものが作れなかったことが悔しかった。ただこのことをキッカケにして、他校の演劇部の知り合いが一気に増えた。学生たちは大会の結果ではなく、内容を評価してくれたのだ。

高校を卒業し、近畿大学の文芸学部に入学し演劇芸能学科を専攻した。
僕と同時期に卒業した色々な学校の演劇部内のスターたちを集めて劇団を立ち上げた。18歳、2度目の旗揚げ。精力的に活動をし、地元では結構知名度も付いてきた。 そして20歳、僕の人生を変えたあの台本の再演をすることになった。

『誰もいない森で倒れた大木に音はあるのか?』

「孤独は人を蝕む・・・人は幸せになる為には孤独と向き合うしかない」
「孤独な想いを誰にも語れずにいるとしたら、その孤独はどうしたらいいのか・・・」
「どうやったら孤独と人は向き合うことができるのか・・・」

高校二年の大会で落選してから、僕はずっとこのことを考え続けた。
いじめられていた頃の孤独な体験が、幸せになる為には、孤独と向き合う必要があると僕に感じさせた。いじめられていた僕は誰にも叫べなかった。そんな僕の気持ちは誰にも届かなかった。誰もいない森で倒れた大木に音はあるのか。あると信じたい、でも孤独を抱えて人はどうやって生きていけばいいんだろう…真っ白な原稿用紙を前に僕はずっと悩み続けていた。

ある日、近鉄電車の六番線に上がる階段の途中で突然閃いた。

「愛すればいいんだ。」と。

生きる為には愛すればいいんだ…それが孤独と戦う武器なんだ…興奮状態で僕は一気呵成に階段を駆け上り、駅のホームを端まで走った。正体不明の多幸感に包まれたままホームの端で僕は叫ぶ。

「愛だーーーーーーー!」

今考えると完璧にやばい人だ。やばい高校生だ。その絶叫をしたのが金曜日。その日の晩から土・日の三日で書きあげた。書き上げる為の力は積み上げてきたから書き始めたら一瞬だった。

そんな個人的にも思い入れのある台本の再演に心躍った。大幅に加筆をし、本番を迎える。公演終了後、目を通したお客様のアンケートが僕の人生のテーマを決めることになる。そこにはこう書いてあったのだ。

「最近生きていても面白くない。毎日毎日同じ事の繰り返しで本当につまらない。だから私はもう死のうと思って いました。今日、友達に引きずられてあなたたちの芝居を見に来ました。面白かったです」と。

その下に小さな字でこうあった。

「もうちょっと、生きていてもいいかなと思えました。本当にありがとう。」と

…涙が止まらなかった。

僕は演劇に救われた。演劇のおかげで人とコミュニケーションをとれるようになったのだから。
そんな自分が、演劇を通して、人に生きたいと少しでも思ってもらえたんだ。凄い…演劇って凄い…このアンケートは僕が『生涯、演劇に命をかけていく』ことを決めたキッカケになる。

掲載日:2017年02月17日(金)

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演劇・ゲーム専門家

池田レゴ(いけだ れご)

コミュニケーションの質を改善する人材育成レッスン「演劇活用法」を普及している池田練悟さん。演劇の未来と役者の為に今の劇団を立ち上げるキッカケとなった自身の経験とは…!?

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