真鍋徹也 Episode4:心を動かすのは、むき出しの心。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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太鼓に打ち込めないのが心残りで、2度ほど彼女に冗談めかして聞いてみた。
「太鼓、プロでやりたいって言ったら、どうする? 」
「お金どうするの? 不安定な収入になるなんて、私嫌だわ」
「じゃあ、準社員とかのクチとか探して……」
なんて、顔色をうかがいながらも。やっぱそこだよな、と思った。
それでなくても古風な考え方の嫁さんなのに、旦那が正規の勤めをやめて太鼓の道に転向するなんて。

そんな時、昔お世話になった親方にヘッドハントされ、新規の店に勤めることに。
すると、そこのオーナーが数ヶ月分の売り上げを持って飛んでしまった。詐欺だったのだ。

とにもかくにも生活をしなきゃ。急遽、居酒屋のアルバイトを始めた。
料理だけでなく、現場仕事なんかもして、ダブル、トリプルワークで働いた。
家族の生活のために忙しく働きながらも、僕のなかにはだんだん大きくなる声があった。

「本当は、どこなんだ? 」
「俺の本当は、どこにあるんだ? 」

僕の隣にいる妻は、しあわせにしたい最愛の妻は、嘘を許さない厳しい性格だ。
その不安定で厳しい妻を、本当の意味でしあわせにしたい。彼女に心から笑っていてほしい。

自分をごまかして笑って生きながら、愛する人を本当に笑わせるなんてできっこない。
全身全霊でぶつからないと……全身全霊で何かに打ち込んでいる僕じゃないと、
この妻の心を本当の意味で揺さぶったり安心させたりすることなんかできないんじゃないか。

答えはわかっていた。天邪鬼の門を叩いた時、天邪鬼のコンサートを舞台袖から見た時、僕にはこれだとわかっていた。
仕事で稽古に行けなかった時期のつらさは、言葉で表せない。
家族を持って、妻が倒れて、家計を支えるプレッシャーが大きくなって、これまで目を背けてきたけど。
逆なんだ。自分が家族を支えるためにこそ、太鼓がやりたいっていう気持ちを貫かなきゃいけないんだ。

稽古から帰宅すると10時。妻は起きていた。
「話があるんだ。聴いてくれるか? 」
妻の前に正座した。
「何よ? こんな夜遅くに」
怪訝な顔をしながらも、妻も向き直ってくれる。

「5年。5年間、チャンスをくれないか? これで太鼓のプロになれないなら、俺は太鼓を一切やめる」

じっと僕を見つめて、妻は口を開いた。
「いいんじゃない? 死ぬ気でやりなさい」
出たのは承諾の言葉だった。呆気に取られる僕に、妻は続ける。
「毎月決まった額のお金を家に入れる。5年でモノにならなかったらやめる。
これだけ。これだけ守れるなら、何でも好きな事やりなさい」

それから10年近く。僕は第一線で太鼓を続けている。

人の心を動かすのは、人の心なんだ。見栄や小細工なんか取っ払った、むき出しの心。
21歳の僕は、師匠たちの演舞を舞台袖で見て、それを学んだ。
プロでやらせてくれと妻に向き合った僕は、むき出しの心で彼女に訴えたんだ。

彼女がそれまで「太鼓のために夫がアルバイトするなんて」と難色を示してきたのは、そこに僕の覚悟がなかったからだ。
冗談みたいな言い方で、準社員だの何だの逃げ道を用意して。本気も何もあったもんじゃない。

逆に、肚の座った僕の言葉に、彼女は二つ返事で頷いた。
考えてみれば当然だった。彼女は、何より嘘を嫌うんだから。ダサい男ではなく、カッコいい男の傍にいたかったんだから。

あなたが結婚しているとかしていないとか、彼女がいるとかいないとか、そんなコトじゃなくて。
心や魂の震える瞬間がある。それをつかんだ時、損得勘定や計算なんか脇に置いて、飛び込んでみてほしいんだ。

そりゃ、怖いだろう。「そんな事して何になる」って思うだろう。過去に何かに失敗した時の怖さがよぎるかもしれない。
それでも、僕はそっちを勧めたいんだ。

僕は、自分に嘘をつきながら妻をしあわせになんかできなかった。僕自身モヤモヤしながら生きていた。
いまパートナーがいてもいなくても、自分自身の心があるだろう。
自分が自分に嘘をつきながら、本当の意味でしあわせに生きることなんかできないんだ。
大切な人のためにも、大切な自分のためにも、これと感じたもののためにまっすぐ突き進んでほしい。その選択は絶対にあなたを裏切らないから。

不器用な僕の歩んできたKeyPage。あなたの勇気になりますように。コンサートにもぜひ来てね。

掲載日:2018年12月04日(火)

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