木島タロー Episode1:失意の底でもがく日々 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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出勤したその足でトイレに駆け込んだ。
床にへたり込み便器を抱えて、必死に嗚咽が外に聞こえないようにこらえる。
涙と、止まらない吐き気の中、絶望というのは体を蝕むのだ、そうはっきり感じていた。

誰も僕を見つけてくれない。
共に夢を追ったはずのバンド仲間は、ひとり、またひとりと去っていった。

「お前、いつまでそんなことやってんだよ」

27歳という年齢になり、シンガーソングライターという夢を追いかける僕への周りの目は、どんどん冷たくなっていく。

就職なんて一切考えず、大学卒業後はバンド活動に明け暮れた。
数枚のチケットを売るためにどれだけ走り回っても、ライブハウスは閑散としていた。
僕の音楽を認めない連中には、知性が足りないんだ。
この社会はなんてくだらないんだ。

膨れ上がった毒々しい感情は、友人や仲間を傷つけていった。
どんどん独りになってゆく。
めざした夢は、遠く霞んでいく。

僕は人生に失敗したのだ。
女手一つで借金して僕を音大に入れてくれた母に、なんと言おう。

皮肉にも、生活のために働いていた保険会社の時給は良好だった。
音楽をやめてこのまま保険会社の電話番になるのか……。
個性不要のサラリーマンになど、絶対になるまい、と固く決めていたのに。
嫌だ……そんな人生、僕には死んでいるも同然じゃないか。

ぐるぐると感情が身体中を駆け巡って、吐き気が消えない。
トイレで泣き続ける日々。
この真っ暗な闇の出口は、どこにあるんだろう……。

掲載日:2017年10月27日(金)

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Power Chorus 協会共同代表
在日米軍契約ゴスペルミュージシャン

木島タロー(きじま たろー)

「なぜ僕の音楽を聴こうとしない……?」シンガソングライターの夢が砕かれ、絶望の淵に立った男が、『Power Chorus』という新しい音楽ジャンルを切り開いたキッカケとは?

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