石本幸四郎 Episode3:自分の力を超えて。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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自分の感覚や心の声を無視していたころ、他人の言う常識や理屈で生きていたころには見えなかったもの――
生きている実感ややり甲斐といったものを、ゴミ拾いをとおして掴んでいった僕。

もっと僕らしい事がしたい。僕の心は何をしたがっているだろう??心に尋ねると、その声が聞こえた。
「てんつくマンのやってきた、人の目を見てインスピレーションで言葉を書く仕事!僕もやってみたい!!」

800万円の借金を抱えた経験が、ある意味支えになった。
この先どんな挑戦をしても、あれよりつらい事はそうそうないだろう。
路上に座り込んで言葉を書くことは働きながらでもできるけれど、肚をくくって取り組みたかった僕は会社を退職。

……してから気づいた。
「路上に座って言葉を……そんなん、人が見たら何て思うやろ?」

人目が気になる。知り合いに見られたら恥ずかしい。警察に注意されたり怖い人に絡まれたりしたら……本当に怖い。
初めのうちは、敷物を広げて始めるまでに1時間以上モジモジしたり、広げられないまま帰ったりしていた。

けれども、それを理由にいつまでも縮こまりたくなかった。
「せや、一歩前へ進むんや!」
怖がりな僕はそれを逆手に取り、怖いおもいをせずに言葉を届ける方法を考えた。
許可をもらって居酒屋さんの敷地を使わせてもらったり、イベントに出店させてもらえるようにツテを頼ったり。
“路上詩人”と名乗ってはいたものの、なるべく路上に出さずに済むよう工夫しながらのスタートだった。

とはいえ、てんつくマンのようなぶっ飛んだ人と同じ事が本当に僕にもできるのか。緊張して言葉が出なかったら申し訳ない。
心配症な僕は、「あなたの目を見てインスピレーションで言葉を書きます」と看板を出しながら、
“心に響きそうな言葉”を事前に10個考え、暗記して店を広げた。

たくさんの方に書かせてもらえたほうが収入になる。けれども、11人以上来られたら困る。
「書きたいけど、書きたないな……」そんな葛藤を抱えながらのスタートだった。

「おもろそうやん」
「これ並んでんの?うちらも書いてもらおうで」
ある日、思いがけず行列が出来てしまった。書きながらちらりと見ると、「な……10人超えとる!」

もう、やるしかなかった。
その日11人目のお客様と向かい合い、じっと目を見つめる。緊張を収めるため、普段より深く深呼吸した。

「あ………」

その目が、書くべき言葉を教えてくれた。
自分でも驚くほど躊躇なくスラスラと筆を滑らせ、書き上げた言葉を朗読する。
次の方にも、その次の方にも。

その日僕は33人もの方に言葉を書かせていただいた。
言葉が出てこず困ることはなかった。そして、半数以上の方が涙を流してお礼を言ってくださった。

「てんつくマンにはできても、僕にはでけへんかも」
そんなふうに自分を縛っていたのは、自分自身だった。

そもそも、言葉を“自分で考える”“自分で出す”という姿勢こそが、自分を制限していたのだ。違う。自分の力で書くんじゃない。
自分も相手も超えた何かに委ねた時、自力ではとうてい考えられない力が働き、必要な言葉が湧いてくる。
てんつくマンはそれをしていただけなのだ。その“委ねること”は、僕にも、誰にでもできる事。

その後、言葉に困ることは一切なかった。企業からの依頼を頂いたり全国ツアーをしたり、と活動が広がっていった。
たくさんの出逢いや感動的な体験ができた。生涯のパートナーとも出逢えた。
ゴミ拾いの喜びを超えた、生きている実感。たましいを輝かせる日々。せや、僕は、こないして生きたかったんや………!!!

掲載日:2017年12月30日(土)

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言霊アーティスト

石本幸四郎(いしもと こうしろう)

その言葉と生き方で多くの人に希望を与えている石本幸四郎さん。視覚障害を持ち、社会に出てからの挫折も繰り返した石本さんは、どのようなキッカケを経て生き方を変化させていったのでしょうか……?

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