石本幸四郎 Episode2:生きている実感を掴んで。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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「新規事業立ち上げるから来てくれへんか」
そんな時、起業していた友人に声を掛けられた。

うつ寸前という診断さえ受けていた僕。新しい事業に関わることに、夢や希望みたいなものを少しだけ思った。
これを最後の職にしよう……心にそう誓い入った会社は、僕の入社直後にリーマンショックの波の直撃を受けて業績もガタガタに。

モヤモヤしたものを抱えながら働いていた僕は、社長である友人の紹介で、ある社会活動家の名前を知った。
「“てんつくマン”?なんや、ギャグか?」

メールマガジン取ってみた。「天国をつくる」が活動名の由来だという。
映画を作るために吉本を辞め、NPO法人を作ったりゴミ拾いをしたり路上に座り込んで言葉を書いたり……。
変な名前……経歴も突拍子もないし……何考えてはるんやろ……。
いても立ってもいられなくなり、彼の作った映画の上映会とトークライブに足を運んでみた。

仮装しながらモンゴルの砂地に植林したり、カヌーのような舟で900kmの航海を成し遂げたり、
アフガニスタンの子どもたちのために何百人もの日本人がマフラーを編んで届けたり……。
「この世を天国にするために」という合言葉のもと、ど素人たちがいろいろな事に果敢に挑戦してゆくストーリー。
そんなさまを撮影した自主制作映画だった。そのストーリー、そしてその上映会に集う人たちのキラキラした目に圧倒された。
「……こんな生き方、あるんや」
ただ驚くばかりだった僕の心の奥に、小さな小さな声が聞こえた。ずっと僕から遠ざかっていた、本当の僕の声。

「こんなキラキラした生き方、してもええんや……」

会場のトイレに駆け込む。公共の男子トイレにはたいてい書いてある張り紙が、僕の目に飛び込んできた。
「一歩前へ」

僕は、ゴミ拾いを始めた。一歩前へ踏み出すために。

長時間拘束で、通勤に2時間掛かる会社。それでも駅から会社までの20分でゴミを拾うことくらいなら僕にもできる。

初日はゴミ袋3つがパンパンになった。
ものすごい量のゴミが落ちていたことに、ゴミを拾ってみて初めて気づいた。なかでも煙草の吸殻が多い。
すると、僕の横を自転車が通った。吸殻をポイッと捨てて。
断られたり怒られたりすることへの恐怖心が人一倍の僕。てんつくマンも「No」より「Yes」で社会を動かしてきた人だ。
こういう人たちに「捨てないでください」と言う以外に、何かアプローチできないだろうか……。

「せや!ゴミ拾いしとる僕と友達になったら、おっちゃんポイ捨てせェへんようになってくれるかも」

その日から僕は、挨拶をしながらゴミ拾いすることにした。
蚊の鳴くような声で始めた挨拶も、慣れてくれば気持ちよく声が出せるように。
続けていると、相手のほうから「いつもおおきに」と挨拶してくれる人、わざわざ車を停めて声を掛けてくれる人さえ現れるように。
通勤途中のコンビニに寄れば「いつもゴミ拾うてくれてるお兄ちゃんやんな」と言われ、コーヒーをおごってもらうことも。

街が少しずつキレイになっていくことに喜びを感じていた。
好きな事をしながら、人に感謝されたり顔見知りや友達が増えたりする。なんてしあわせな事だろう……!!!

何のために働くのか。しあわせとは何なのか。生きる意味とは。
何も見えないまま、親の言葉に従ったり借金返済の必要性に迫られたりして生きてきた人生だった。
そんな僕が、いま、好きな事をしてしあわせを経験し、分かち合っている………。

「天国は死んでから行くとこやない。つくるモンや」
てんつくマンの言葉を噛み締める。
せや。天国はつくるもの、生きて経験するものなんや。それは、こういうコトやったんやな……。

掲載日:2017年12月30日(土)

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言霊アーティスト

石本幸四郎(いしもと こうしろう)

その言葉と生き方で多くの人に希望を与えている石本幸四郎さん。視覚障害を持ち、社会に出てからの挫折も繰り返した石本さんは、どのようなキッカケを経て生き方を変化させていったのでしょうか……?

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