なんとか実習を終えた。国家試験をパスして卒業すればいよいよ僕も理学療法士だ。色々片付いたら先生のところに挨拶に行こう。僕が理学療法士になったって聞いたら、喜んでくれるかな。
「もしもし?……え」
不意に母さんから電話が来た。
菊池先生が亡くなった。
2ヶ月前に倒れて入院していたらしい。実習中で疲弊している僕のことを気遣って、母さんはそのことを伏せていたのだ。
僕を救ってくれた人、僕の目標だった人がいなくなってしまった。
棺の中の先生は、とても穏やかな顔をしていた。先生を慕う人々が周りで悲しんでいる。涙をぼろぼろと流して泣いている人もいる。
悲しくてしかたないのに、不思議と穏やかな気持ちがする。
これで、役目が終わったんだな。きっと先生は、たくさんの人を救ってきたんだろう。ようやくその勤めを終えたんだ。
ありがとう、先生。ゆっくり休んでください。
親友と話していたとき、ふと背中に誰かの気配を感じた。
「先生……?」
振り返っても誰もいない。
先生が、僕の肩に手をおいて微笑んでる気がしたんだ。
理屈じゃなく、僕は直感した。きれいな水が身体の中を染み渡っていくような、静やかな気持ちが僕の中を満たしていく。
「これからは自分で道を開いていくんだ」
10月11日。僕の23歳の誕生日だった。