背が小さいことがコンプレックスだった僕。背の順はいつも一番前で自信がなく、とてもシャイな性格だった。人前で何かを表現することがあまりに恥ずかしく、顔が赤くなってしまうことから、「りんごちゃん」なんて呼ばれることもあった。そんな調子だから、みんなの前で歌わなくてはいけない音楽のテストが嫌過ぎて、教室から逃げたこともあったくらいだ。
でも、友達を作ることは、ずっと得意だった。
小学校に入ると、バスケットボールをしていた兄の影響で、バスケ部に入った。一生懸命友達を作ることで、背のコンプレックスを感じさせないような自分を作り上げた。チビだからこそ動き回ることが得意な僕は、バスケ部ではキャプテンを任されて、チームをまとめる役割を担っていた。
一見、順風満帆に映っていただろうけど、僕の心の中は違っていた。キャプテンを務めても皆をまとめられていない気がしたし、クラスで友達と遊んでいても、周りの様子をうかがって、みんなにぶら下がって存在している感覚だった。いつまで経っても、心の中にいる本当の僕は、自信のないシャイな僕のままだった。
中学校に入ると、やんちゃなグループでつるむようになった。土日になると訳もなく集まって遊んだり、ここには書けないようないたずらもたくさんした。
心の中では違和感をおぼえているのに、そのグループに所属して自分を強く見せることが、自分のコンプレックスを隠す方法のように思えて、無理に皆に合わせて笑って、楽しそうなふりをした。
中学2年生に進級するとクラス替えがあり、今まで一緒にいたような、やんちゃなタイプの友達がいなくなった。すると、心の中の違和感が徐々に消えていくのが分かった。ありのまま話せる友人ができ、日々が徐々に色付きだした。
そこでふと「周りの環境」が自分に大きく影響することや、「誰といるか」がとても大切なことなのだと気が付いた。
部活は小学校に引き続き、バスケ部に所属していた。進級するごとにどんどん背は伸びていたけど、まだバスケをする身長としては小さい方だった。
僕をはじめ、他の学校のチームと比べると、背の低い人ばかりだった僕らのチームは、何を強みにするかを考えた。そこで、どこよりも足の速いチームを目指そうと決め、毎日走り込んだ。するとその甲斐あって、県で3位という結果を残すことができた。
しかし、部活を引退すると「頑張る対象」がなくなってしまい、手持無沙汰になってしまった。これを機に、今までおろそかにしていた勉強を、頑張ることにした。
1人でやるのもつまらなかったので、バスケ部の皆を誘った。皆で励まし合って勉強をすることは、部活の延長のようでとても楽しかった。
すると、それまでそこそこだった成績が、ぐんぐん伸びて、気が付けば400人ほどいる学年の中で、成績の順位が1桁になっていた。
やればできると実感することができたとともに、それが数字に現れるのが楽しかった。
そんな風に楽しんで勉強をしていると、高校受験で第一志望にしていた県内でトップレベルの進学校に、皆で合格することができたのだ。
晴れて志望校に入学したものの、中学校での成績云々は関係なく、高校ではまさしく「中の中」だった。
それから周りの優秀さに刺激を受ける日々が始まり、また「周りの環境」が自分に大きく影響することを痛感した。
高校に入り、ずっとコンプレックスだった身長は、いつしか人より高いほどに伸びていた。有難いことに高校を卒業するまでの中高6年間で、35cmも伸びたのだ。
それに加え、自分なりの地道な努力で進学校合格を捥ぎ取った僕は、徐々に自分に自信が持てるようになっていた。
今までのような、周りから見られることを意識して取り繕った虚像の自分ではなく、少しずつ自分自身の内面に価値を感じることができていた僕は、充実感を持てていた。
“自分の「在り方」ひとつで、こんなにも日々は楽しくなるんだ。”
更に、文武両道を掲げていた僕の学校では、学内イベントも大いに盛り上がる。
そのうちの1つである体育祭で、僕はこの先の人生の軸になっていく考え方に気が付くこととなった。
1~3年生の縦割りで編成されたグループで対戦する体育祭。他にも色々なイベントがある中で僕は、チーム一丸となって同じ目標に向かい喜び合う体育祭が、特別に楽しかった。まさに、中学生の頃バスケ部のみんなで必死に走り込んだあの時や、受験勉強を励まし合って頑張ったあの時の気持ちが蘇った。
“僕は、チームで何かをするのが好きなんだ。”
今までなんとなく感じていた想いが確信に変わり、ハッとした。
その後、大学に進学し、建築学を専攻。入学してすぐにあるイベント「大学祭」の実行委員になることを決めた。様々な学部の何かを作るのが好きなメンバーが集まって、ライブやパフォーマンスを行うステージを協力して作りあげた。
そんなある日、実行委員の先輩から、ひょんな流れで司会に誘われた。
自分のコンプレックスを克服しつつあると言っても、数百人に見られる司会となると勝手が違った。それでも僕は、意を決してその大役を承諾した。
マイクを持って大勢の人に、自分の言葉で自分のことや、ステージの楽しさを伝える―
初めての体験だけあって、当日はとても緊張した。
不安だったものの、全てを出し切った結果、イベントは大成功を収めた。
“そうか。自分の内側って、表現してもいいんだ。”
挑戦したことで掴んだ確かな手ごたえは、また1つ大きな自信へと繋がり、「チームで何かを成し遂げる楽しさ」を再確認した。僕が成長や変化をしてきた時にはいつだって、最高のチームの存在があったのだ。