エステは未経験でも資格さえあれば開業できる。
勤務1年で独立したあたしは、まずは自宅サロンを開業し、無料施術から試行錯誤を始めた。
基本はレコーディングダイエットで、LINEサポートを組み込んで食事記録を送ってもらったりアドバイスを送ったり。
初めのうちはアルバイトをしながらだった。実家を巻き込んで母の知り合いに施術したり、ツテを頼って芸能関係の楽屋で施術したりした。
「雇われてるほうが楽だよ。お前、経営には向いてない」
ある時、初対面でそう言ってきた男性に
「過食症だったあたしだからやらなきゃいけないんです! 」とおもいをぶつけた。
結果、その人があたしに経営の何たるかを教えてくれた。2ヶ月で売上が回復、エステだけで食べてゆけるようになった。
高校時代の親友を雇うと決めた時にも、「お前はまだ人を雇う器じゃない」と反対された。
「人ひとりの人生を抱えるんだぞ。食わせられなくなったら体売る覚悟あんのか?」
「わかった。体売る覚悟でやります」
持ち直した売上が彼女を雇った初月にはガタ落ちしたけれど、体を売る覚悟で……と背水の陣で臨んだぶん人に頭を下げることが苦にならなかった。
「今月ヤバいんです!紹介してください!!」
あちこちに紹介を頼み込み、彼女を育てお店を育て、気づけば彼女はあたしの右腕、頼もしい存在になってくれていた。
2016年2月1日、目黒区のサロンをお借りして、パーソナルダイエット専門店 「Romantic Diva」をオープン。
DIVA――歌姫。
歌で身を立てる道は手放したけれど、あたしのおもい、スタッフのおもい、利用してくださるお客さまのおもいが叶うよう願って。
あたしの意図の反映なのか、過食症をはじめとした摂食障害に悩む女の子の利用も多い。
エステは、どちらかというと過食症にならないように予防するためのもの。
あたしにできる事はし、話せる事は話したうえで、「何かあったら相談してね」と長い目で見て寄り添う。
過食症の子を雇ったこともあり、紆余曲折経て完治するところまで近くで、また遠くで見守らせてもらった。
摂食障害は、究極、自分自身に治す意志が生まれない限り治らない。
自分自身の可能性を諦めたり、誰かに縋って治してもらおうとしたりしているうちは、どんな名医にも治すことのできない精神疾患だ。
ただ、その克服する意志を持つきっかけとして、誰かの生きる姿や掛ける言葉の活きることはある。
そして、その多くは経験者の姿や言葉なのだ。
同じ病気を経験し、死ぬほど苦しみ、克服し、いま充実した日々を生きている姿こそが、
「誰にも理解されない」と孤独感に苦しんでいる当事者の心に訴える力を持っている。
最後は自分自身。けれども、ひとりひとりがその意志を持つまでに働き掛けられる部分はあたしにもある。
そう確信しているから、あたしはこの声を届けてゆく。
過食症は治るよ。
そして、夢は叶えられる。
その夢は、初めに心に抱いた形とは違うかもしれない。紆余曲折経て気づいたころに……かもしれないけれど。
あたしは、みんなを笑顔にしたくて歌手をめざした。ただ、それだけが動機ではなかった。劣等感や周りの期待もたくさんあった。
いまでは、劣等感からでも期待に応えようとするプレッシャーからでもなく、したい事として、女の子の笑顔を生み出すお手伝いを仕事にしている。
「いまのままじゃダメだ」なんて悲しいおもいから自分を苦しめるダイエットをするのではなく、
「もっとステキになれるかも」という軽やかで前向きなおもいから自分をしあわせにするダイエットや美容を選んでほしくて。ひとりでも多くの女の子に。
劣等感をごまかしていた学生時代。ガリガリにやせていた二十歳のころ。過食症になってリバウンドした美容部員時代。
キレイ事を言っても、あのころは返って来ないしやり直せない。だからといって、戻って来ない青春を悔やんでも何の意味もない。
だったら、活かすしかない。
そんな経験があったからこそ……と言える瞬間をひとつでもたくさん掴み、つらかったあのころの自分に笑顔を向けてやりたい。
そして、未来のある女の子たちに希望を届けたい。
女の子たちが無理なダイエットで苦しまなくて済むように。いま苦しんでいる女の子には、克服のきっかけになるように。
これが、あたしの人生のKeyPageです。
掲載日:2017年10月06日(金)
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初芝恵梨菜のエピソード一覧
パーソナルダイエット専門店 Romantic Divaオーナー
エステティシャン/心理カウンセラー
初芝恵梨菜(はつしば えりな)
18キロの減量、20キロのリバウンド。過食症経験者の初芝恵梨菜さんは、現在ダイエットサロンを経営しています。「経験者でなければ届かない声がある」サロン経営に懸けるおもい、そこに至るストーリーとは……?