初芝恵梨菜 Episode1:ガリガリの体だけが残って。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

» 初芝恵梨菜 Episode1:ガリガリの体だけが残って。

ものごころついたころから、あたしは歌っていた。

パパは、おじいちゃんの会社を継ぐために夢を諦めた。
パパのバンドに憧れて歌を歌い始めたあたし。パパは喜んでくれた。子どもが楽しそうに歌っていれば、大人はちやほやしてくれる。

兄ふたり妹ひとりに両親の6人家族。パパやママの関心が惹きたかった。
歌は心底好きだったし歌えば周りが喜んでくれることもうれしかったけれど、
「成功しなきゃ」「人と違った事をしなきゃ」「パパの諦めた夢をあたしが叶えなきゃ」というおもいもどこかあった。
裕福でキレイな友人たちと比べてしまう劣等感も強かった。歌手になればお金が稼げる、いまみたいに我慢しなくて済む、そう思っていた。
母親がピアノ教室をしている親友や、バイトもせずに青山の短大に通える華やかな同期たちに劣等感を抱きながらも、
「あたしには歌がある」と言い聞かせては日々暮らしていた。

短大の2年に上がるころ、音楽でやってゆくと言いながら具体的な行動をしていない自分に気づく。
自分の人生だもの、捨て金になっても構わないと思い、バイトで稼いだお金で養成所に通い始めた。

音楽で勝負するかぎり容姿は関係ない。そう信じていたあたしは、そこで業界の現実を知った。
「女の子はやせてないと話にならないからね」
元からかわいい裕福な同期たちへの劣等感を「勝負するものが違うんだから」と見て見ぬふりしてきたあたしへの、容赦ない言葉だった。
「音楽をするにも容姿が大事なの……?」

自己流のダイエットを始めた。お金もなかったので、SNSで見つけた自宅サロンの体験モニターを利用したりした。
モデルの子も通って来るというあるサロンで「極論、彼女らは食べてないわね」と言われたことから、ものを食べないというやり方で体重を落とし始めた。

朝ごはんはスムージー。お昼は持参したお弁当。夜は食べない。
一日の摂取カロリーが800kcalを超えないように気をつけた。そして、毎日短大まで1時間掛けて歩いた。
3ヶ月で10キロやせた。うれしかった。努力がやっと形になった……!!!

けれども、やせたところで芸能活動が順調になるわけではなかった。
あたしがそんな努力の果てに体を絞って絞って、でも音楽の仕事もそれ以外の芸能の仕事もなかなか取れない。
そんな時に限って、元が恵まれたお金持ちの同期が原宿や表参道でスカウトされて読者モデルになって……人気が出て……。
惨めだった。売れる人は何もしなくても売れちゃうんだ。
努力しても報われない。でも、元がこの程度のあたしがここで努力をやめたら、いったい何が残るんだろう。

日に何度も体重計に乗った。体重の増減に一喜一憂した。
生理が止まった。疲れやすくなったり、ふらふらしたり。若年性更年期障害の症状だった。
オーディションに行くたびに、あたしよりやせている女の子たちを目の当たりにして打ちひしがれた。
「この業界の子はみんな体張ってるから」
「元が細い子だけじゃないよ。みんなダイエットして現状掴み取ってる」
そう言われてしまえば言い訳はできない。もっとやせなくちゃ。もっともっともっと。

1年で18キロ落とした。
短大の友人たちの目が以前と変わっていた。
何だろう。どうしてそんな、怖いものを見るような目で見るの? あたしはこれだけやせてやっとキレイになれたのに。

けっきょく、歌で実績を残すこともデビューの手掛かりを掴むこともできなかった。
養成所は1年で卒業し、同時に短大も卒業。ガリガリにやせた体だけが残った。二十歳だった。

掲載日:2017年10月06日(金)

このエピソードがいいと思ったら...

この記事をお気に入りに登録

パーソナルダイエット専門店 Romantic Divaオーナー
エステティシャン/心理カウンセラー

初芝恵梨菜(はつしば えりな)

18キロの減量、20キロのリバウンド。過食症経験者の初芝恵梨菜さんは、現在ダイエットサロンを経営しています。「経験者でなければ届かない声がある」サロン経営に懸けるおもい、そこに至るストーリーとは……?

エピソード特集