運動場で、年上の男の子たちが野球の練習をしている。
その中で活躍しているのが僕の兄さんだ。
僕は親に連れられて、兄さんの野球合宿を見学に来ていた。
兄さんが打つ、走る、取る。
グラウンドの上で活躍する兄さんは、僕にとって遠い存在だ。クールで、なんでもできて、優秀で……なんとなく近寄りがたい。
僕には8歳上の兄と10歳上の姉がいる。母さんは昔水泳で活躍していたらしい。その影響か、僕の家はスポーツの関心が高い。
父さんは僕にめっぽう優しい。特になんの理由もなくゲームソフトを買ってくれたりする。兄さんと姉さんにはものすごく厳しかったらしいけど、僕は一度も怒られたことがない。
「末っ子はうらやましい」なんて思うかな。でも実際のところ、僕だけ扱いが違うせいで兄と姉の間に変な距離感があった。まるで、僕だけが蚊帳の外にいるような感じだ。
実際、僕は兄さんとは違う。僕は2人と違って、運動音痴のダメなやつだった。
小学校に入学して、僕も野球クラブに入った。兄さんみたいになりたいと思ったわけでもないし、それどころか野球をしたいとも思っていなかった。親が勝手に僕をクラブに入れただけ。僕はそれに従っただけだ。スポーツ一家の末っ子の僕がスポーツをやらされるのは必然かもしれない。
でも、優秀なスポーツ少年の兄さんと違い、僕は全然活躍できなかった。
打てない、走れない、取れない。
兄さんはもう中学校に上がってるから、クラブで顔を合わせることはない。それでも、いないはずの兄の存在が僕の周りにチラつく……。
「お兄さんはあんなに上手いのに」
「期待はずれだな」
そんなことだれも言ってないのに、聞こえないはずの声が聞こえてくる。
「楽しくないな……」
僕は仮病を使って練習を休むようになり、やがてクラブをやめた。
その後も僕は、親に勧められて色々なスポーツをやらされた。水泳、テニス、サッカー……どれもうまくいかない。入ってはやめ、入ってはやめを繰り返しているうちに、劣等感が募っていく。
僕の頭の上には、常に兄の存在がのしかかっている。スポーツができてかっこいい。それなのに、そのその弟である僕は……。
「僕は運動音痴だ。スポーツなんかまともにできないんだ……」
運動ができない僕は体育の授業が嫌いだった。球技をやれば皆の足を引っ張ることになる。かけっこはいつもビリ。皆で一斉にスタートするのに、僕だけがどんどん離されていく。皆がゴールして、僕だけが1人コースの上で走っているのを周りの皆に見られるのが苦痛だった。
友達もいるし、いじめられているわけでもない。だけどいつも他人に引け目を感じてしまう。八方美人になって、周りに合わせるのが楽だ。自分の主張はめったにしない。だって僕が何か言ったって無意味なんだ。……いつの間にか、僕はすっかり卑屈になっていた。
「運動音痴の僕なんか」
スポーツができない。それが、僕の心を締め付けていたんだ。