飯田崇秀 Episode2:小さなプライドでがんじがらめの日々 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

» 飯田崇秀 Episode2:小さなプライドでがんじがらめの日々

僕は理学療法士を目指すことにした。
「下積みとして体のことを知っておくといいわよ」
そう先生にアドバイスを受けた。僕の目標である先生が、僕の行く道を示してくれたような気持ちがした。

先生みたいになる。そう志したはいいけど、成績が中々ふるわない。テストの結果や通知表を見るたびに気が重くなる。

参考書を読んでもさっぱりわからない。1人でうんうん考えるけど、時間だけが過ぎていく。

あいつに聞いてみようかな。いや、でも……なんかやだ。恥ずかしい。

「え、お前こんなのもできないの?」

僕の頭の中であいつが笑った。

やっぱ、嫌だ。あいつには頼りたくない。めんどくさいけど先生に聞こう。

「これ、こないだ教えただろ。こんなのもわからないのか」

先生の言葉が僕の頭の中を何度も飛び跳ねる。

こんなこともわからないのか。

こんなこともわからないのか。

こんなこともわからないのか。


お前はダメだ。

お前はダメだ。

お前じゃ何もできやしない。

言葉が頭の中をぐるぐるして、僕の存在そのものを否定されていく。胸が痛い。刺されたみたいだ。

もう先生に聞くのはやめよう。だいたい、授業でわかるように説明できない先生の方が悪いんだ。僕は悪くない、僕は悪くないのに……。

誰も頼れない。頼るとバカにされる。「できないやつ」と思われる。いや、「できないやつ」なのが、みんなにバレてしまう。それは嫌だ。怖い。他人なんて頼れない、全部自分でやるしかないんだ。

気が付いたら僕はすっかりふてくされていた。

学校の行事とかめんどくさい。みんなとなんかやるのだるい。どうせ揉めるし1人でいたい。青春とか、くだらない、バカみたい。……うらやましい。でもどうせ僕には関係ないことだ。みんなの中に入ったって、失敗して恥をかくだけだ。

僕は僕の夢があるんだからそのために勉強だけしてればいい。それなのに、なんでこんなに成績が伸びないんだ……。

同級生との青春を捨ててまで勉強したのに第一志望の医療系大学に落ちた。

他の皆が進路先について話しているときも、僕は輪の中に入らなかった。志望校に落ちたなんてかっこ悪い。笑われる……。

滑り止めで妥協するのはいやだ。

高校を卒業して予備校での浪人生活が始まった。

ここは講師や生徒同士の距離感がすごく近い。「医療の道に進む」皆が同じ目的でここにいる。だから助け合ったりするのが当たり前なんだ。お互いに競い合ったり敵視しあったりするようなことなんてない。

浪人したという焦りや負い目の中、毎日朝から晩まで顔を合わせる同級生たちのことが、いつの間にか好きになっていた。

「みんなで助け合って同じ目標に進むって、いいな」
「この人たちと一緒に世の中の患者のために生きていけたらいいな」

高校のときの僕じゃ、絶対にそんなこと考えなかったと思う。僕に必要だったのは、同じ志をもつ仲間だったのかもしれない。

僕はいつの間にか、他人と一緒に何かをすることが楽しいと思えるようになった。

「みんなのおかげで”生かされてる”」

勉強することも気が付いたら好きになっていた。そもそも、進学校の勉強は受験のために「やらなきゃいけないこと」だから嫌だったんだ。医学の勉強、先生みたいになるための勉強ならいくらでもできる。これならきっと志望校に行ける!



センター試験1日目。

全然ダメだった。

絶対落ちた。これじゃ絶対受からない。二次試験にすらいってないのに、せっかく親に迷惑かけてまで一浪したのに。

一年間あれだけ頑張ってきたのに、なんでこうなるんだよ。

会場の前に立ち尽くしていたら、父さんが来た。車で迎えに来たんだ。父さんの顔を見た瞬間、いろんなものが抑えきれなくなった。

結局、僕は滑り止めの大学に進学することにした。

大学はまだ開校したばかりで僕は3期生。まだ4年生がいない。数が少ない分、縦と横の繋がりが強くて、みんな仲がいい。でも僕はその中に入る気になれない。

「勉強だけしてればいいや」

大学に入るとまた1人が好きになっている。予備校の仲間といるときの充実感はどこに行ってしまったのだろう。自分でも不思議に思うけど、結局僕はそういう性質(たち)なんだ。


「これってどういうこと?」

病院実習ではわからないことだらけだ。

確認しようと思ってバイザーの方を見た。

「……なんか忙しそうだな。あとでいいや」

レポートを書いてても、どうしたらいいか分からないことがしばしば起こる。

「でもこれ聞いたら怒られそうだな……自分で調べればいっか」

本当にこれで大丈夫か……。間違ってあとで怒られたらどうしよう、やっぱ今聞きに行こう……。

「あ、すみませんここ……」

「あ?もう帰るから今度にして」

「あのこれって……」

「自分で調べろ」

せっかく勇気を出して聞いたのに、なんだよそれ。もう聞くもんか、1人でやってやる。


バイザーとうまくいかず、患者の治療計画や課題の作成もうまくいかない。あげくの果てには体調を崩して、もういやだ。楽しくない。早く終わってくれ……。

どうして僕はこんなにうまくいかないんだろう。

掲載日:2019年11月29日(金)

このエピソードがいいと思ったら...

この記事をお気に入りに登録

S-PACE (エスペース)代表

飯田崇秀(いいた たかひで)

整体やカウンセリングを通じて心と体の両面からアプローチする「スピリチュアルセラピスト」の飯田崇秀さん。重い病気や他人とうまく繋がれないことに悩んでいた彼は、たくさんの貴重な出会いによって変わったのでした。

エピソード特集