高野悠一郎 Episode1:ボクシング一筋の人生を。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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持て余していたエネルギーをどうにかしたくて、俺はジムの戸を開いた。
初めは怖かった……人と人が殴り合うなんて。けれども、そこには俺の求めていたものがあったのだ。

鍛錬を積んだら積んだだけ目に見えて結果につながるという達成感。
パァンとノックアウトした瞬間、悔しいけれどされた瞬間……ギャラリーが見ている、自分が見られているという爽快感。

南アルプスや富士山を登頂しても、見ているのは俺だけだった。
それまでやっていた登山とは違った魅力。ボクシングには、俺の求めていたものがすべて詰まっていたのだと思う。
高校3年次に始めたボクシングに俺はのめり込み、大学生になり。
気づけば俺は練習生なのに、日本ランキングに入っている現役プロボクサーより強くなっていた。

同い年の彼女と授かり婚をするのと前後してプロデビューした。
ジムの会長の方針で、きちんと就職先を見つけてからのデビュー。社員食堂を運営する給食会社の内定を取り、新卒で就職した。
先輩たちは皆昼間働いてからジムにやって来る。俺もそれが当然だと思っていた。
一日10時間とか12時間……ブラックな業界なのだ、そのくらい働き、
23時にジムに行って2時間スパーリング、そして帰宅。また翌朝早くに出勤する。そんな生活だった。

毎晩ディズニーランドに行く気分だった。今日は何ができるだろう。今日はどこまで強くなれるだろう。

一方、妻は心配しているようだった。
正直なところ、ボクシングというのは、傍で見れば見るほどしてほしくないスポーツだろう。
肋を折ったり鼻を折ったりしながら出勤し、実戦の勘を失いたくないから骨折していてもジムに行く生活。
それでなくとも俺と彼女の生き方の指針は正反対だった。
俺は、挑戦してこそ人生だと思っている。彼女は安定第一、平穏な生活を壊す可能性のある事はしたくないししてほしくないという女性だった。

彼女の気持ちを慮って言ったこともある。
「次負けたら、引退するから」
その後3年間俺は無敗だった。

ある時、日本ランキング3位の選手から試合のオファーが来た。
それに勝てば最短で日本タイトル……よし!いよいよ日本チャンピオンだ!!!

拳を握り締める俺の直面したのは、思いがけない現実だった。

掲載日:2017年12月02日(土)

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「沖縄ダイニングHai-Sai六本木」店長

高野悠一郎(たかの ゆういちろう)

地域のコミュニティとしてのお店を育てるバー店長、高野悠一郎さん。プロボクサーとしてのキャリアのピークで突如訪れた引退という挫折からいかに立ち上がり、空間づくりという使命に気づいたのでしょうか……?

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