真鍋徹也 Episode3:逆境を越えて。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

» 真鍋徹也 Episode3:逆境を越えて。

和太鼓にも夢中になりながら、世界にも興味のあった僕。バックパッカーで東南アジアを回ったりした。勤める店も変わった。
新しい店の近くのコンビニにかわいい店員さんがいた。福島のじいちゃん譲りなのか、店員さんでも何でも声を掛けちゃう僕だ。
相手も心を開いてくれて、天邪鬼のコンサートに誘ったり、メールでやり取りしたりするくらいの仲になった。

2度目のバックパッカーから帰国してすぐに会いに行った。付き合ってくれと言うと、「結婚を考えてくれるなら」と言う。
しばらく彼女も要らないと思っていた僕だけど、なぜかこの子とは結婚する気がした。
いろんな事があってたくさん傷ついてきて、不安になってしまいがちなこの子を、守ってあげたいとも思った。
これまでの男とは違う……そう、示したかった。要するに、惚れたってことだ。

付き合う前からマジメな子だなと思っていたけど、付き合ってみて、価値観の違いに驚いた。
「え、女友達とメシ食うのが浮気?? 」
それはないだろうと思ったものの、話し合って折り合いの付きそうな感じでもない。
別に何事もない仲だけど、女友達と会う時には彼女に隠れて行った。

ある日、彼女と会っていてトイレから戻ってくると、彼女は鬼の形相をしていた。右手に僕のケータイを握り締めている。
「何なのよ、この女」
ついこのあいだ女友達と会ったのがバレたのだ。

「友達だよ。何にもないけど、お前が嫌がるから黙ってたんだよ」
「嘘つき! 女と会うのは浮気よ! 会わないって約束したじゃない! 」
「約束したけど、俺は友達と会うのを浮気だと思ってないんだよ。何にもしてないんだし」
謝りながらも、納得もできない。僕のなかでは浮気じゃないんだから。友達として会ってメシ食っただけなんだから。
途方に暮れる僕に、彼女は言った。

「嘘は嘘だわ。あなた、ダサい男なのね」

新しい職場では、太鼓をやっていることを理由に嫌がらせを受けていた。稽古に出させてもらう約束で入ったものの、守ってもらえない。
人より何時間も早く出勤し、仕込みを終えて、稽古に抜けようとすると、あれもこれもと仕事を押し付けられる。少人数の職場で、逃げ場がなかった。
勤めてしばらくになるので、仕事上の責任もある。プレッシャーもある。
目を閉じるとサンマが何匹も浮かぶ。「全部捌かなきゃ、間に合わせなきゃ……」なんてうなされて、寝ても寝た気がしない。
チャリ通勤の途中で眠すぎてこげなくなり、道端で寝て出勤したことも、運転を誤ってガラスに突っ込んで大怪我をしたこともある。
時々だけど、幻覚も見えるようになった。紫の立方体が視界から取れなくて。パニックの症状も出た。

支えてくれる彼女も不安定なので、落ち込んでしまうと「裏切られた」「許さない」とあの時の事を責める。
僕は裏切っていないけど、嘘をついたのは事実だ。落ち込んだ彼女に僕の言い分は通用しない。

好きで好きで仕方ない太鼓の稽古に行けない。
好きで好きで大切に思っている彼女に責められる。

奇跡的に稽古に出られたある日、異変に気づいていた師匠に言われた。
「環境か自分か相手が変わらないと、現状は変わらない。自力も相手も無理なら、環境を変えるしかないんじゃないか? 」

ようやく転職を決意した。ただ、次の店でもいじめられるんだけど。稽古に行かせてもらう約束も、やっぱり守られない。
それでも僕は踏ん張った。
一番ヤバいところからは抜け出した。自分にできる事はやろう。いますぐに完璧にはなれなくても、できる範囲で文句を言われないようになろう。
段取りの能力を意識的に身につけた。子どものころのチームプレイや、コンサートでの段取りの経験も手伝ったのかな。

仕事はつらいままだけど、前の店のころより気持ちが前向きになっていた。そのタイミングで彼女と結婚。
その翌日、彼女が倒れた。緊急入院の結果、適応障害と診断された。
ふっと安心した瞬間に風邪を引いたり怪我したりする、そういうのが、心のほうに表れたんだと思う。

家庭を持った責任感もある。僕が、なんとか強くならなきゃ。家族を守れる本物のオトコに、僕はなりたい。

掲載日:2018年12月04日(火)

このエピソードがいいと思ったら...

この記事をお気に入りに登録

エピソード特集