真鍋徹也 Episode2:魂を震わせて。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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都内の会席料理店で働きながら、高校の友達に誘われて音楽のライブにもよく通うようになった。
ある日、『サンクチュアリ』を教えてくれた友人がロックと和太鼓のライブに誘ってくれた。
会場は広いカフェだ。舞台と客席が同じ高さで、距離も近く感じる。

気づいたら、虜になっていた。

肌に、心臓に、振動がビリビリ伝わって来る。思わず僕も体を揺らした。
エアで太鼓を叩いてみる。……ああ、これだ。何なんだ、この感覚!? こんなに興奮したのは生まれて初めてだ。

気づいたら阿佐ヶ谷の街に立っていた。帰りの電車の記憶がない。まあ、それは酒のせいかもしれないけど。
家で寝て、起きて、仕事に行って。帰宅して、また寝て、起きて。
ひと晩の気の迷いじゃなかった。何日経っても忘れられなかった。
「太鼓、やりてえ……!!! 」

高校のクラスメートに電話した。
「文化祭で和太鼓やったよね? あの時何とかってとこで習ったんだろ? それ教えてくんない? 」

こうして僕は、「太鼓集団天邪鬼」の門を叩いた。怖そうな師匠の写真が掲げられていて。
躍動感あふれるムキムキの男たち、それに負けじとイキイキとバチを振る女性たちの繰り広げる、練習風景。

一瞬でノックアウトされた。

仕事のシフトをやりくりしながら、僕は「天邪鬼保存会」に通い始めた。
直感は勘違いじゃなかった。体中の血の沸騰するような感覚。これこそ僕の求めていたものだった。
初めてバチを握った時、手の皮がベロベロにむけて。そのまま仕事に行くと、水や湯に手を浸けるのがクソ痛いんだけど。
そんな痛みすら、魂の求めていたものを始め、続けていくための洗礼のように思えた。

こうして太鼓を始めて、1年も経つころ。天邪鬼の20周年コンサートを迎えた。僕はペーペーなので、もちろん手伝いなんだけど。
どんなコンサートなのかもイマイチ理解しきらないまま、当てられた裏方の仕事に取り組んだ。
もちろん事前に、リハーサルもDVD撮りも手伝いながら見ていたんだけど……いよいよその本番当日。

練馬文化センターの広い客席が満員御礼に!
師匠や先輩方のカッコいい姿、ものすごい演奏をこれまで見てきていたんだけど、
コンサート会場からお客さんがあふれるほどだとまでは思っていなかった。

いよいよ幕が開ける。僕は舞台袖からその様子を見ていた。
真っ暗なステージに赤いライトが当てられ、師匠たちの姿が浮かび上がる。

それは、すごいなんてモンじゃなかった。
観客を迎えたステージでの演奏は、この世のものとは思えなかった。
「バケモノか、この人たち!? 」
演奏の合間のステージ転換でミスしないように気をつけながらも、心はすっかり奪われていた。
これまでだって、和太鼓に心は奪われきっていると思っていたのに。

“魅せる”“見せつける”ということ。
表面的な、小手先のカッコ良さじゃ、こうはいかない。何かこう……見ていて吸い込まれるような感覚。

いつまでもいつまでも、拍手は鳴り止まない。
感動の先にある、感銘──そんな言葉が当てはまるのかな、これは。

「感動って、こういうものなんだ。人の心を動かすって、こういうことなんだ!! 」

観客も総立ち、感動の渦に巻き込んだ20周年コンサート終了後。
もともと週1回の夜の練習生向けの稽古に出ていた僕は、昼間のプロ向けの稽古にも参加するようになった。
「5年後のコンサートでは、俺もあの舞台に立つ」
そんな野望を、21歳の胸に抱いて。

掲載日:2018年12月04日(火)

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