指導を受け始めて最初の一年間で、記録が異常なほどに伸びた。
俺は冗談まじりに、「このペースで伸びたら日本記録出ちゃいますよ」と言った。
でも、それに対してコーチは、「出るよ。」と答えてきた。
「そんなもんなんですか…?」
「ちゃんとやれば出るよ。」
それを聞いて、心の底からワクワクした。自分の可能性が広がること、それは誰にとっても、一番ワクワクすることに違いない。
そこで改めて、俺は自分の身の振り方を考えた。
要は、今の会社にそのまま居続けるのか、それとも会社を辞めてまた陸上をやるのか、どちらを選ぶのかということだ。会社を辞める理由は特に無かった。会社のビジョンには共感していたし、一緒に働くメンバーもとても良い人達で、休日に一緒に遊びに行くくらい仲が良かった。 ただ、それよりも、走ることに対して感じる「ワクワク感」の方が勝っていた。
仕事に慣れ、余裕が出てくると、3年先・5年先の先輩達の仕事内容が分かってくる。すると、自分がこの会社に居続けた場合の、進化成長度合もなんとなく分かる。それに対して、俺はあまりワクワクを感じられなかった。それよりも、日々もの凄い勢いで記録が伸びている短距離走を続けることの方が、とても嬉しく、ワクワクを感じられることだった。
俺は社長に、「本気でオリンピックを目指すんで、会社辞めさせてください。」と申し出た。
「そんなこと言って会社を辞めるやつは初めてだ」
当然だろう、25歳から短距離走の記録が伸びて、オリンピックを目指すようになるなんて、自分以外見たことがない。
もちろん、上手く行く可能性は保障されていない。
起業経験は無かったし、可能性はむしろ低いとさえ思った。ただ、自分の感情に素直に生きることにした。
短距離走は、才能やセンスの世界だと思っていた。
でも、正しいことをやれば、必ず結果を出せるんだっていうことを知った。そんな自分だからこそ、伝えられるメッセージがあるだろう。
これが俺の、KeyPage。
掲載日:2016年12月12日(月)
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新垣隆史のエピソード一覧
ゴールドメダル・アライアンス主宰
100m陸上短距離走選手
新垣隆史(あらがき たかし)
「走る起業家」として、実業団に所属せずフリーで陸上短距離走の選手として活躍している新垣隆史さん。一度は諦めたプロアスリートへの道をもう一度目指したキッカケは、とある本を手に取ったことだった。