俺は誰よりも速くなりたかった。優秀でありたかった。
小学校、中学校の時は、学年で一番足が速かった。
「足が速い=新垣」というアイデンティティが成り立っていた。リレーのときは、暗黙の了解でアンカーに選ばれていたほどだった。俺は、誰にも負けたことがなかった。
ところが高校に入り、体力測定をやってみると、学年どころかクラスでも一位を取れなかった。スポーツ推薦のある学校だったせいもあるのか、自分より速い奴らがたくさんいた。このままじゃダメだ、と思った。今まで「一番足が速い人=新垣」という位置づけだったから、それが維持できないのは嫌だった。
俺は陸上部に入ることにした。すると、そこにはたくさんの「俺より速い人達」がいた。しばらく挫折感を引きずったのは言うまでもない。
けれど、その一方で自分のアイデンティティを保つために必死だった。何かしらいい方法さえ見つかればきっと速くなれると信じていた。何故なら俺は、「誰よりも足が速い」という状態を知っている。だから、絶対にまた一位の座に戻れると、自分はまだまだこんなもんじゃないぞと、信じて疑わなかった。
陸上を辞めようとは一度も思わなかった。
大学に進学してからも、公式の陸上部に入った。
しかしやはり、思うような成果は出せず、実業団に行けるような実績は残すことが出来なかった。
俺はやれるだけのことを試した。走り込み、筋トレに始まり、走りのフォームを改善する専門のジムにも通った。イチローがやっているのと同じトレーニング方法を試してみたりもした。
でも、どれをやっても結果が出なかった。
俺は、実業団に行けないのなら、どう働くのが自分にとって幸せかを考えた。
掲載日:2016年12月12日(月)
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ゴールドメダル・アライアンス主宰
100m陸上短距離走選手
新垣隆史(あらがき たかし)
「走る起業家」として、実業団に所属せずフリーで陸上短距離走の選手として活躍している新垣隆史さん。一度は諦めたプロアスリートへの道をもう一度目指したキッカケは、とある本を手に取ったことだった。